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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:生命保険

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1.はじめに
生命保険契約について、保険契約者からの保険金受取人変更の意思表示が口頭であった場合、保険金受取人の変更は成立したといえるのかが争われ、これを否定した興味深い裁判例(東京地裁令和4年4月28日判決・令3(ワ)2186号、2022WLJPCA04288002)を見かけました。以下見てみたいと思います。
(なお本件訴訟では、保険金受取人変更の意思表示についてだけでなく、保険者への保険金受取人変更の対抗要件についても争点となっておりますが、本稿では割愛します。)


2.事案の概要
(1)生命保険契約の概要

B(昭和46年生)は、生命保険会社Yと平成22年3月1日付でつぎの内容の生命保険契約を締結した。
(ア)保険種類 5年ごと配当付更新型終身移行保険10年満期
(イ)保険契約者・被保険者 B
(ウ)保険金受取人 D(Bの母・補助参加人)
(エ)保険金額 1000万円
(オ)特約死亡保険金・給付金合計額 400万円
(カ)保険約款の規定
本件保険契約に関する保険約款には,「死亡保険金受取人の指定又は変更は,保険証券に表示を受けてからでなければ,被告に対抗することができない」旨が定められていた(5年ごと配当付更新型終身移行保険普通保険約款第34条3項。)。

(2)本件訴訟の概要
Bは、Y社との間で,平成22年3月1日付けで本件保険契約を締結した。なお,その際の手続は,営業職員のCが担当した。XとBは,平成27年3月頃から交際を開始し,同年12月4日に婚姻した。

Cは,本件保険契約の更新時期の約1年前となったため,平成31年3月上旬頃,Bに架電し,保険の更新や見直しに関する話をした。Bはこの電話の際,Cに対し,結婚して住所が変わった旨を伝えた。これを受け,Cは,保険金の受取人をDからXに変更するかどうか確認する等した。Bは,同年3月30日,Cに架電し,面談は同日であったかを確認した。Cが4月6日の予定である旨回答すると,亡Bは,保険の内容についてよく考えたいので4月6日の面談はキャンセルしたい旨述べて電話を切った。Cは,同年4月1日,Bに対し,保険契約の見直しに関して提案することを考えていた保険商品の保障設計書2通及び契約の更新に関する試算資料を送付した。Bは,同年4月26日,くも膜下出血により死亡した。

Y社はDからの保険金請求を受けて、同人に対し、合計1400万円の死亡保険金を据置払いで支払った。これに対して、Xが、本件保険契約の保険金受取人はBにより自分に変更されていると主張して、Y社に対して死亡保険金1400万円および遅延損害金の支払いを求めて提訴したのが本件訴訟である。

3.判旨
(請求棄却)
2 BがXに対して本件保険契約の死亡保険金の受取人をXに変更するとの意思表示をしたか否かについて
(1)旧商法附則2条は,同法の施行日(平成22年4月1日)前に締結された保険契約については保険法(平成20年法律第56号)附則3条から6条までの規定により同法の規定が適用される場合を除いてなお従前の例によると定めており,本件保険契約についても原則として旧商法が適用される。  そして,旧商法の適用下においては,保険金受取人の変更は,保険契約者から新たな保険金受取人に対する意思表示のみによって効力を生じるものと解される(最高裁判所昭和62年10月29日第一小法廷判決・民集41巻7号1527頁参照)。

(2)この点について,Xは,BはXに対してXと婚姻する前の平成30年7月22日に「俺はY社に入っていて,受取人は母にしているんだけど,結婚したら受取人をXに変更するからね。」旨述べ,また,婚姻後の平成31年3月20日頃に「結婚したから保険料の支払金額の関係で契約の見直しと受取人の変更をするから。保険のおばさんにうちに来てもらうけど,いい?」,「受取人をXに変えるけど,万が一俺が死んだら,母にも渡してね。そうしてくれないと,化けて出るからね。」旨述べて,本件保険契約の死亡保険金の受取人を原告に変更するとの意思表示をした旨主張し,X本人がこれに沿う供述及び陳述をする。

 この点,Bが上記主張にかかる発言をした旨の原告の供述及び陳述を裏付ける的確な証拠はないが,この点を措き,仮にBが上記主張にかかる発言をしていたとしても,本件においては,以下のとおり,それによって直ちにBがXに対して本件保険契約の死亡保険金の受取人を原告に変更するとの意思表示をしていたものと認めることはできない。

 すなわち,まず,上記主張にかかるBの発言には(かえって,上記主張にかかるBの発言の内容からすれば,Bは単に「結婚したら受取人をXに変更するつもりである」又は「今度Y社の担当者に来てもらって保険の見直しと受取人の変更の手続をする予定である」旨の今後の意向ないし予定をXに語ったに過ぎないものと解するのが自然である。)。

また,後記3(2)のとおり,Cが,Bに対して保険金の受取人を変更するかどうか尋ねた際に,保険金の受取人は直ちには変更せずに保険の見直しの際に考える旨回答していた旨証言ないし陳述していることからも,Bが当時本件保険契約の保険金の受取人をXに変更するとの確定的な意思を有していたかには疑問がある。これらの事情からすれば,Bが上記主張にかかる発言をしたことをもって,直ちにその時点でBがXに対して保険金受取人変更の意思表示を行っていたものとは認められない。
(略)

 以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却する。

4.検討
(1)保険金受取人変更の意思表示

保険金受取人の変更について、現行の保険法43条は、保険事故が発生するまでは、原則として保険金受取人の変更を認め(同43条1項)、その方法として遺言(同44条)によるほかは、保険会社(保険者)に対する意思表示によると規定しています(同43条2項)。

一方、保険法制定前の平成20年改正前商法では、原則として保険金受取人を変更することはできないものの(改正前商法675条1項)、特約によって保険契約者に保険金受取人を変更する権利を留保することができるとされ(同条1項但書)、実務において保険約款上、保険金受取人の変更権を留保していることが一般的であり、本件の保険約款も同様となっていました。そして保険会社の二重払いのリスク回避のために、改正前商法は、保険契約者の保険会社に対する通知が保険金受取人変更の保険会社に対する対抗要件となると規定していました(同677条1項)。

その上で、保険契約者の保険金受取人変更の意思表示について最高裁は、保険契約者の一方的な意思表示で足りるとし、その意思表示の相手方は保険者、新旧保険金受取人のいずれでもよいとしています(最判昭和62・10・29民集41巻7号1527頁)。

本件は、保険法施行前に締結された保険契約が問題となっているため、保険法でなく平成20年改正前商法が適用される事案です(保険法附則2条)。

(2)保険金受取人変更の意思表示に関する裁判例・学説の変遷-保険契約者の意思の尊重vs法的安定性
上の昭和62年の最高裁判決およびそれを支持する学説は、「できる限り保険契約者の真の意思を尊重すべきである」という価値判断が背景にあります。

一方、昭和62年の最高裁判決後、このような保険契約者の意思の尊重を重視した変更の柔軟な認定に疑問が学説において提起されるようになります。すなわち、債権譲渡の確定日付による対抗要件のような意思表示の有無・前後を明確にする仕組みが商法にはないことから、保険金受取人変更が競合する場合、差押債権者等の第三者が発生した場合に法律関係が不安定となるため、保険金受取人変更を柔軟に認める方向に反対し、保険金受取人変更の意思表示の相手方は保険者に限るべきであるとする学説があらわれました。

また、同様に、法的安定性を重視する観点から、保険金受取人変更の意思表示であるといえるためには明確な基準によるべきであるとして、保険金受取人変更の意思表示はただの意思表示では足らず、「確定的な意思表示」が必要であるとする学説も現れました(長谷川仁彦「保険金受取人の変更の意思表示と効力の発生」『中西正明先生喜寿・保険法改正の論点』251頁)。

この点、裁判例においても昭和62年の最高裁判決後、保険契約者の意思の尊重でなく、法的安定性を重視して、保険金受取人変更の意思表示に「確定的な意思表示」を求めるものが現れるようになり、そのような方向が主流となっています(東京高判平成10・3・25判タ968号129頁、東京地判平成9・9・30判タ968号130頁など)。

そして、平成20年の保険法は、上でみたように、保険契約者の保険金受取人変更の意思表示の相手方を保険者と規定しており、昭和62年の最高裁判決の考え方は立法的に破棄されたものといえます。

(3)本件訴訟の判決について
本件は、平成20年改正前商法が適用される事案ですが、Bの発言について、「そもそも本件保険契約の具体的な内容がほとんど表れておらず,その発言の内容に照らしても,Bがかかる発言によって確定的にその保険金の受取人をXに変更する意思表示をしたと認めるのは困難であるといわざるを得ない」「今後の意向ないし予定をXに語ったに過ぎない」と認定して、保険金受取人変更を否定しています。

これは、上でみた昭和62年の最高裁判決以降の、保険金受取人変更の意思表示に「確定的な意思表示」を求める学説・裁判例の流れに沿うものであり、妥当なものであると思われます。

■参考文献
・山下友信『保険法(下)』307頁
・得津晶「保険金受取人変更の意思表示と対抗要件」保険事例研究会レポート323号6頁

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損保協会リリース

1.はじめに

令和6年能登半島地震によりお亡くなりになられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

令和6年能登半島地震について、生命保険協会日本損害保険協会が対策本部の設置と非常時取扱いに関するニュースリリースを公表しています。

2.日本損害保険協会のリリース

日本損害保険協会は、災害対策本部を設置するとともに、火災保険、自動車保険、傷害保険などの各種損害保険および自賠責保険について、①保険料の払い込み猶予と②継続契約の締結手続き猶予を行う旨をリリースで公表しています。
・令和6年能登半島地震に関する損保業界の対応について(PDF)|日本損害保険協会
・令和6年能登半島地震による被害に伴う特別措置(自賠責保険)の実施について|日本損害保険協会

また、日本損害保険協会は地震保険の概要の説明などに関するリリースも公表しています。
・令和6年能登半島地震により被災された皆様へ(地震保険の概要やお問い合わせ窓口等)|日本損害保険協会

3.生命保険協会のリリース

生命保険協会は、能登半島地震についてすべての生命保険会社において、今回の災害で被災されたお客さまのご契約に約款の地震による免責条項等を適用せず、災害関係保険金・給付金の全額をお支払いすることを決定した旨のリリースを公表しました。
・令和6年能登半島地震による免責条項等の不適用について|生命保険協会

生保協会リリース

また、生命保険協会は、能登半島地震について、災害救助法適用地域(新潟県、富山県、石川県、福井県)のお客様の保険契約について、①保険料払込猶予期間の延長、②保険金・給付金、契約者貸付金の簡易迅速なお支払い、③保険証券などを紛失してしまいご自身がどこの生命保険会社に保険契約をもっているか分からないお客様のために災害時の契約照会制度を実施することについてのリリースを公表しています。
・災害救助法適用地域の特別取扱いについて(新潟県、富山県、石川県、福井県)|生命保険協会

■追記
なお、金融庁も能登半島地震について特設ページを設置しています。
・令和6年能登半島地震関連情報に関する特設ページを開設しました|金融庁

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1.はじめに

金融法務事情2223号(2023年12月10日号)64頁に、損害保険会社の法人向けの傷害総合保険契約に関して、入院保険金等は会社ではなく従業員に支払われるべきとされた興味深い裁判例(大阪高判令5.4.14、控訴棄却・確定)が掲載されていました。これは損保業界の実務に影響がありそうな裁判例なので見てみたいと思います。

2.事案の概要

(1)Y(砕石業の会社)は平成27年5月に損害保険会社との間で全役員および従業員を被保険者とする傷害総合保険契約(本件保険契約)を締結した。本件保険契約においては入院保険金・通院保険金・手術保険金等の保険金請求権者は被保険者もしくはその父母、配偶者または子と保険約款に規定されていた。Yは入院給付金等はYが受け取る趣旨の法人契約特約が本件保険契約には付加されていたと主張しているが、この点については本件訴訟で争われている。

(2)Xは従業員としてY社で働いていた。平成27年9月、YはXに80万円を貸し付けて、Xがこの貸金の分割返済を怠ったときは強制執行を行う旨の公正証書を作成した。Xは平成27年9月25日、就労中に労災事故により受傷し、入院して手術を受けるなどした。そしてYは平成28年9月に損害保険会社から本件保険契約に基づき、入院保険金19万円、休業保険金90万円、手術保険金5万円など合計114万円の保険金(本件保険金)を受取り、またXはその旨を損害保険会社から通知を受けた。

(3)その後、Xは上記貸金をYに返済しないまま他社に転職したため、Yは令和3年4月に上記公正証書に基づき、Xの転職先の会社から支払われる給与を差押えた。それに対してXは、社簡易裁判所に請求異議の訴えを提起し、本件保険金はXが取得すべきものであるにもかかわらずYが保持しているため、XはYに対して引渡請求権または不当利得返還請求権を有しており、これを自働債権として上記貸金債権と相殺したと主張して、上記公正証書に基づく強制執行は認められないとの判決を求めた。社簡易裁判所は本件訴訟を神戸地裁社支部に移送した。神戸地裁社支部(神戸地裁社支部令4.10.11)はXの主張を認めたためYが控訴したのが本件訴訟である。

3.高裁判決の判旨(控訴棄却・確定)

「そうである以上、Yが保険会社から本件保険契約に基づき本件保険金を受け取った場合、当該受取行為は、被保険者である被控訴人からの委託に基づくものでなくとも、同人のためにするものとして、事務管理に該当し、受け取った本件保険金は、特段の事情がない限り、同人に引き渡さなければならず(民法701条、646条1項)、Yがこれを引き渡さない場合には、本件保険金は不当利得になると解される。」

「Yは、当審においても、本件保険契約には法人契約特約(法人を保険契約者とし、その役員、従業員を被保険者とする保険契約において、死亡保険金受取人を保険契約者である法人とした場合に、後遺障害保険金、入院保険金、手術保険金、通院保険金についても死亡保険金受取人に支払う特約)が付されており、したがって、本件保険金の受給権者はYであるから、Yに不当利得が生じる余地はない旨主張する。  しかし、本件保険契約に係る「傷害総合保険契約更改申込書」(乙3)を子細にみても、本件保険契約について、事業者費用補償特約は付されているものの、Yが主張する、法人契約特約が付されていることを明確に示す記載は見当たらない。(略)」

「結局、本件保険契約においては、Yが主張する法人契約特約が付されていたとまでは認めることができない。なお、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効であるというべきである。

4.検討

(1)本判決は、とくに「なお、仮に、本件保険契約において法人契約特約が付されていたとしても、同特約は、本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効であるというべきである。」と判示している部分が重要であると思われます。

保険法
(第三者のためにする損害保険契約)
第8条 被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。

(強行規定)
第12条 第八条の規定に反する特約で被保険者に不利なもの及び第九条本文又は前二条の規定に反する特約で保険契約者に不利なものは、無効とする。
すなわち、保険法8条は、損害保険契約において被保険者が保険契約者と別人である場合には、当該被保険者は保険金を受け取ると規定しており、同法12条は同法8条に反する特約で被保険者に不利なものは無効となると規定しています。これらの条文を受けて、本判決は、法人契約特約は、「本件保険契約の内容や、本件保険金がXの労災事故に起因して給付された入院保険金、通院保険金等であることからしても、保険法8条の規定に反する特約で被保険者であるXに不利なものとして、同法12条により無効である」と判示しているのです。

(2)損害保険会社各社から法人向けの傷害総合保険が販売されているところ、その保険金について、これを受け取った企業が社内の補償規程に基づいて従業員に支払えば問題は起きませんが、補償規程がないとか、企業が被った損害にこの金銭を充当するなどして従業員に保険金を支払わずトラブルとなるケースがあるとされています。

この点に関しては生命保険会社各社の団体定期保険(全員加入型のいわゆる「Aグループ」の団体定期保険)においても約30年前に同様の法的トラブルが多発し、最高裁判決(最判平18.4.11民集60巻4号1387頁)などが出され、生命保険会社各社は主契約の保険金は従業員の遺族に、ヒューマンバリュー特約の保険金は法人に支払うとする「総合福祉団体定期保険」を創設するなどの実務対応を行いました。

これに対して、本件判決は損害保険分野における法人向け傷害総合保険の入院給付金等を会社が受け取るべきなのか、従業員が受け取るべきなのかについて訴訟となり、保険法8条、12条に基づいて従業員が受け取るべきと裁判所が判示しためずらしい裁判例であると思われます(金融法務事情2223号66頁コメント部分)。

(3)この大阪高裁判決を受けて、損害保険会社各社は、とくに法人契約特約などの保険約款の保険金を受け取るべき者の規定について見直しを行うなどの対応が必要になると思われます。

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■参考文献
・金融法務事情2223号(2023年12月10日号)64頁
・山下友信『保険法(上)』345頁
・山下友信・竹濱修・洲崎博史・山本哲生『有斐閣アルマ保険法 第3版補訂版』236頁
・出口正義・平澤宗夫『生命保険の法律相談』(学陽書房)314頁

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保険と個人情報

1.はじめに

このブログ記事は法務系アドベントカレンダー2023( #legalAC)のエントリーです。tomoさんから頂いたバトンを、ヤマダ タツロウさんにお渡ししたいと思います。

令和2年の個人情報保護法改正に関して生命保険会社・損害保険会社が注意すべき点について、とくに①外国にある第三者への提供規制、②保有個人データの利用停止等請求、について個人的に気になる点をまとめてみました。(なお本ブログ記事は筆者の個人的な見解です。)

2.外国にある第三者への提供規制

(1)制度の概要
外国にある第三者への個人データの提供が許される要件は、①本人の同意があること、②日本と同等の個人情報保護の水準国(EU・英国)であること、③移転先の事業者が個情法4章2節の事業者の講ずべき措置に相当する措置を継続的に講じるために必要な基準に適合する体制(「基準適合体制」)を整備した事業者であること、の3類型に分かれます(個情法28条1項)。

外国にある第三者への個人データの提供が許される要件の図

(2)損害保険会社の実務
損害保険会社の実務上、外国にある第三者への個人データの提供は、①再保険契約に基づき外国の再保険会社に提供する場合、②外国法人に個人データの入力作業を委託する場合、③海外の遠隔地で海外旅行保険の保険契約者に保険事故が発生し緊急の対応を要する際に損害保険会社が委託をしている現地のクレームエージェントに情報提供を行う場合、④委託先が外国法人に対して損害保険会社から受託した業務の一部を再委託する場合、⑤外国にある第三者が提供するクラウドサービスをわが国の損害保険会社が利用する場合であって、クラウド事業者がクラウドサービス内の個人データの取扱いを行う場合などがあります。(浅井弘章「令和2年改正個人情報保護法が損害保険会社の業務に与える影響」『損害保険研究』83巻3号60頁。)

(3)本人の同意に基づいて外国にある第三者に提供する場合
本人の同意に基づいて外国にある第三者に個人データを提供する場合には、情報提供義務が新設されたため、本人同意を取得する際の申込書あるいは申込画面に法定の情報を提供・表示した上で、本人同意を取得することが必要です(個情法28条1項)。

わが国の損害保険会社が外国にある第三者の再保険会社に出再を行う場合において、わが国の損害保険会社による顧客からの保険引受および同意取得の時点では、最終的にどの再保険会社に再保険を行うかが未確定であり、当該顧客の個人データを移転する外国を特定できない場合がありえます。

このような場合には、損害保険会社は、①特定できない旨およびその理由、②提供先の第三者が所在する外国の名称に代わる本人に参考となるべき情報、を本人に提供する必要があります(施行規則17条3項)。

(4)基準適合体制を整備している外国にある第三者への提供
1.(2)の①から⑤の業務については、損害保険会社は実務上、基準適合体制(施行規則18条1項)を整備して個情法28条1項に対応していることが一般的であると思われます。

この点、施行規則18条1項は、①当該第三者による相当措置の実施状況並びに当該相当措置の実施に影響を及ぼすおそれのある当該外国の制度の有無及びその内容を、適切かつ合理的な方法により、定期的に確認すること(1号)、②当該第三者による相当措置の実施に支障が生じたときは、必要かつ適切な措置を講ずるとともに、当該相当措置の継続的な実施の確保が困難となったときは、個人データ(法第三十一条第二項において読み替えて準用する場合にあっては、個人関連情報)の当該第三者への提供を停止すること(2号)の2点が要求されています。このうち①の「定期的に確認」については、年1回程度またはそれ以上の頻度での確認が求められています(個情法ガイドライン(外国第三者編)6-1)。

保険会社の実務では、外国にある第三者の委託先事業者に対して個人データの取扱いを委託する場合、当該委託先事業者との間で契約書等を締結することにより当該委託先事業者の基準適合体制を整備し、その上で年1回のアンケートへの回答を依頼していることが多いと思われます。当該年1回の頻度でのアンケート回答は、上記の「定期的に確認」に含まれると考えられます(個情法ガイドライン(外国第三者編)6-1)。

万が一、この年1回のアンケートなどにより契約書違反が発覚した場合には、損害保険会社は施行規則18条1項2号に従った対応ができるように、委託先との契約書等を改訂するとともに、自社の委託先管理の社内規程等を改訂することが必要であると思われます(浅井・前掲63頁)。

(5)生命保険会社の実務
例えば住友生命保険においては、Vitality健康プログラム(日々の運動や健康診断などの継続的な健康増進活動をポイント化し、ポイントに応じて保険料の変動や特典の提供を行うプログラム)の提供にあたり、南アフリカの金融サービス会社と業務提携しており、同社における商品開発などを目的として契約内容や健康状態などの個人データを保険契約者等の本人同意に基づいて南アフリカの同社に第三者提供しているとのことです。

令和2年改正後、住友生命は外国にある第三者への提供規制への対応として、その所在する国名、当該外国における個人情報保護に関する法制度、提携企業等が講じる個人情報保護措置等に関し同社ウェブサイト上のプライバシーポリシー等にて情報提供を行っているとのことです。

また、米国法のFATCA(アメリカ外国口座税務コンプライアンス法)は租税回避の防止を目的として米国人の米国納税者番号や契約内容等を米国内国歳入庁に提供することを求めているところ、日本の生命保険各社は、保険契約者等の本人同意に基づいて契約内容などの個人データを米国内国歳入庁に提供しています。このFATCA対応として日本の生命保険会社各社は、FATCAに係る同意取得書面等に米国の個人情報保護に関する制度や米国内国歳入庁における個人情報保護措置の内容に係る情報提供を行っています。(黒丸栞「令和2年個人情報保護法改正と生保会社における実務対応」『生命保険経営』91巻2号110頁)

3.保有個人データの利用停止等請求の改正

(1)改正の概要
令和2年の個情法改正では事業者が保有個人データの利用停止等(利用の停止又は消去)を行わなければならない場合として、法18条、20条違反に加えて法19条(不適正利用の禁止)違反が追加されました(法35条1項)。

また、法35条5項は、本人は、①利用する必要がなくなった場合、②当該本人が識別される保有個人データに係る第26条1項本文に規定する事態(個人情報漏洩)が生じた場合、③その他当該本人が識別される保有個人データの取扱いにより当該本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合、には個人情報取扱事業者に対して当該保有個人データの利用停止等又は第三者への提供の停止を請求することができることとなりました。

一方、上記①から③に該当する場合であっても、利用停止等を行うことが「困難である場合」には、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置を講じることによる対応が認められています(法35条6項但し書き)。

個情法35条5項の事業者が利用停止等を行わなければならない場合

(2)損害保険会社の実務
この法35条6項但し書きが該当する場合としては、例えば重大な個人情報漏洩事故が発生した場合において、保険会社と当該本人(保険契約者)との保険契約が存続しているため、利用停止等が困難であるとして、以後個人情報漏洩の事態が生じることがないよう必要かつ適切な再発防止策を講じる場合などが該当すると考えられます(個情法ガイドライン(通則編)3-8-5-3)。

また、③の「本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合」については、「正当な」利益であることが要件であるところ、個情法ガイドライン(通則編)は、例えば「過去に利用規約に違反したことを理由としてサービスの強制退会処分を受けた者が、再度当該サービスを利用するために、当該サービスを提供する事業者に当該強制退会処分に係るユーザー情報の利用停止等を請求する場合」は「本人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合」に該当しないとしています(個情法ガイドライン(通則編)3-8-5-1)。

そのため、例えば保険会社が告知義務違反等により保険契約を解除した場合において、その告知書などの個人データの利用停止等の請求がなされた場合は、保険会社はこれに応じる必要はないと考えられます(浅井・前掲78頁)。

(3)生命保険会社の実務
さらに、法35条1項の①「利用する必要がなくなった場合」については、(a)保険契約の解約や被保険者の死亡により保険契約が消滅した場合、(b)保険契約の加入の申込があったものの引受審査により不承諾となり告知などの個人データの消去請求がなされる場合、なども想定されます。

この点、(a)については、保険会社においては税務調査への対応や、各種証明の申出を受けた場合への対応などに備え、引き続き当該保有個人データを保有する必要性があります。そのため、保険会社としては、当該保有個人データの営業活動への利用については停止し、税務調査等への利用は継続するなどの対応ができないか検討するべきと考えられます。

また、(b)については、引受審査の判断のために告知により取得した医的情報等に関しては、不承諾(謝絶)となった場合にはすでに当初の利用目的を達成しているため消去請求に応じることが考えられます。一方で不承諾となった事実や氏名等、消去請求への対応の経緯などの情報については、事後的な対応に備えて保有を続けることついては消去に応じないことが妥当と考えられます。(黒丸・前掲94頁。)

法務系アドベントカレンダー2023 の次回はヤマダ タツロウさんです。よろしくお願いします!

■参考文献
・浅井弘章「令和2年改正個人情報保護法が損害保険会社の業務に与える影響」『損害保険研究』83巻3号55頁
・黒丸栞「令和2年個人情報保護法改正と生保会社における実務対応」『生命保険経営』91巻2号88頁
・宮本順「個人情報保護法の改正が生保業界に与える影響」『生命保険経営』88巻5号4頁
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』333頁、373頁

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『ジュリスト』1590号(2023年11月号)130頁に小野寺千世先生の「銀行による外貨建て変額保険勧誘の違法性が否定された事例」(東京地判令2.1.31・請求棄却・控訴)が掲載されていたので、変額保険訴訟について考えてみました。

1.事案の概要
本件は被告銀行Y1の従業員Y2の勧誘により訴外生命保険会社Aとの間で変額保険契約を締結した原告Xが、上記勧誘には書面交付義務違反、説明義務違反ないし適合性原則違反等があったと主張して、Y1およびY2に対して不法行為および使用者責任に基づく損害賠償約303万円の支払いを求めた事案である(民法709条、715条、会社法350条)。

本件でXが勧誘された保険(以下「本件保険」)は、通貨選択一般勘定移行型変額終身保険すなわち外貨建ての変額保険であり、移行日までの運用期間、外貨建てで振り込まれた一時払保険料の全額が特別勘定で運用され、その運用成果により死亡保険金および解約返戻金が変動するものである。そのため移行日前に保険契約を解約した場合、その運用成績によっては解約返戻金額が一時払保険料の金額を下回るリスク(元本割れのリスク)があるが、移行日までに解約をしなかった場合には一時払保険料の額が解約返戻金の最低金額として保証されるものであった。また死亡保険金も最低死亡保険金額が保障されるものであった。

Xは昭和29年生まれで不動産管理会社Bの代表取締役であり、およそ3400万円の資産を有していた。Xは平成27年8月26日、生命保険会社Aとの間で、保険契約者および被保険者をX、契約通貨を米ドル、移行日までの運用期間を20年として本件保険を内容とする保険契約(以下「本件保険契約」)を締結し、一時払保険料8万1000米ドル(当時の為替レートで約1004万円)を支払った。

その後の約3年後、Xは本件保険契約を平成30年9月現在で解約した場合の解約返戻金額は約833万円であり、一時払保険料約1004万円との差額である約171万円に相当する損害を被り、100万円相当の精神的苦痛を受けたとして、弁護士費用約32万円を加えた合計約303万円の損害を被ったとして、Y1およびY2には説明義務違反、適合性原則違反などがあったとして損害賠償を求めて訴訟を提起したのが本件訴訟である。

2.本判決の判旨(請求棄却・控訴)
判旨1 契約締結前の書面交付義務違反ないし説明義務違反について
ア Xは、本件勧誘の際、Y2がXに対して本件パンフレットを交付するにとどまり、クーリング・オフを含め、本件保険の内容について具体的な説明をしなかった旨主張し、X本人もこれに沿う供述等をする…。これに対し、Yらは、Y2がXに対して本件パンフレット、保険設計書、契約締結前交付書面…等を交付し、当該各書面に基づき具体例も交えて本件保険の内容及びリスク等を説明した旨主張し、Y2本人もこれに沿う供述等をする…。

イ (ア)そこで、X本人及びY2本人の前記供述等の信用性について検討するに、X本人の前記供述等は、そもそも…契約締結前交付書面等によって本件保険について説明を受け、その内容を確認し理解した旨や『契約締結前交付書面(契約概要/注意喚起情報)』、『ご契約のしおり・約款』及び『特別勘定のしおり』を受領したことを認める旨の記載がある書面にXが署名又は署名及び押印をしていること…と明らかに矛盾する。
(略)

ウ そうすると、Y2は、本件保険契約締結以前の段階で、Xに対し、契約締結前交付書面等の各書面を交付するとともに、当該各書面に基づき、本件保険について元本割れのリスクや為替リスクなどがあること…など、本件保険の内容等について具体的に説明したものと認めるのが相当であるから、本件勧誘に契約締結前の書面交付義務違反ないし説明義務違反があったということはできない。」

判旨2 適合性原則違反について
ア 保険の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し、顧客の適合性を判断するに当たっては、当該保険の特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資に関する経験や知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。

イ 本件保険は、解約返戻金が一時払保険料の額を下回る危険性を有し、為替相場の変動も受けるから、当該保険契約の締結により損失が生ずるおそれがある商品であるということができる。しかしながら、本件商品においては、死亡保険金として支払いを受ける場合及び移行日以後に解約返戻金として支払いを受ける場合には、米ドル建てで支払った一時払保険料の額が最低でも保証されている。…契約内容は、投資に関する知識が豊富でない者でも容易に理解できるというべきである(略)。

ウ Xに係る諸事情についてみると、…Xは、…投資等の経験を有していなかったものの、B社の代表取締役としてその事業についての経営判断等も常日頃からしており、米国及び欧州の為替についての知識も有していたこと、値上がり益を追求し、比較的積極的な運用をする意向を有していたこと及び少なくとも3400万円程度の金融資産を有していたことがそれぞれ認められる。 以上を総合すると、Xが前記イの各リスクを理解するための知識や認識に欠けていたということはできず、本件保険がXの投資意向に反していたともXの財産状態に照らして著しく不相当であったとも認められない。」


3.検討
(1)本判決について
(ア)説明義務
本件においてXは、Y2が本件パンフレットを交付するにとどまり、クーリング・オフを含め本件保険の内容について具体的な説明を行わなかった旨を主張するのに対して、Yらは、Xに対して本件パンフレットのほか、保険設計書、契約締結前交付書面、ご契約のしおり・約款及び特別勘定のしおりを交付し、当該各書面に基づき具体例も交えて本件保険の内容およびリスク等を説明した旨を主張しています。

この点、裁判所の本判決の判旨1は、契約締結前交付書面等によって本件保険について説明を受け、その内容を確認し理解した旨や当該各書面を受領した旨の記載がある書面にXは署名または署名および押印していることなどを事実認定し、Y2からXに契約締結前交付書面等が交付され、本件保険の契約内容やリスクなどについて説明がなされたと認定し、Yらの説明義務および書面交付義務は尽くされていたとしています。この判旨は妥当であると思われます。

(イ)適合性原則
適合性原則について本判決の判旨2は、従来の裁判例(東京地裁平成25・8・28判タ1406号316頁など)を踏襲し、「当該保険の特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資に関する経験や知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」との判断枠組みを示した上で判断を行っています。

判旨2は、本件保険はリスクのある商品ではあるが、投資に関する知識が豊富でない者であっても理解でき、必ずしも元本割れリスクが大きいものとはいえないと判示しています。また、Xは会社の取締役であり日常で経営判断などを行っていること、米国や欧州の為替について知識を有していること、3400万円程度の資産を有していること等を認定し、Yらの説明に適合性原則違反はなかったと判示しています。そして結論として本判決は、Xの請求を棄却しています。本判決は妥当であると思われます。

(2)説明義務に関する学説
学説は、保険契約の重要な内容については保険会社および保険募集人は説明義務を負い、この義務に違反した場合には不法行為として損害賠償責任を負うということは判例法理として確立しているとします。

説明義務において説明すべき事項については、一般論は必ずしも明らかではないものの、保険会社、保険募集人の責任が認められている事案から見れば、当該事項の説明があったとすれば当該保険契約は締結しなかったか、または当該保険契約の内容のままでは締結しなかったであろうといえる場合であるといえるような事項であるということができるとしています。

保険業法その他の法令では、2014年保険業法改正前でも情報提供規制は整備されていたものであって(保険業法300条1項1号、同100条の2)、その規律を遵守していたとすれば保険契約者一般にとって重要な事項は各種文書の交付等により情報提供されていたはずであり、説明義務違反が生じることはあまり考えられないとしています(山下友信『保険法(上)』274頁、275頁)。

(3)保険実務上の留意点
本判決を含む裁判例は保険会社および保険募集人の説明義務について、保険契約締結までに「ご契約のしおり・約款」や契約締結前交付書面などの各書面が交付されていたかを非常に重視しています。そのため保険会社等はこれらの各書面の交付を必ず行い、申込書の各書面の受領を確認した旨の署名・押印欄に必ず署名・押印をいただくことが求められます。

また、2014年保険業法改正以降は、保険会社等には従来の意向確認義務だけでなく意向把握義務も課せられるため(保険業法294条の2)、保険会社等は、この意向把握において、顧客が自らの保険ニーズをどのように述べたか、保険募集人はどのように説明したか等を折衝記録として残すことが求められると思われます。

■参考文献
・小野寺千世「銀行による外貨建て変額保険勧誘の違法性が否定された事例」『ジュリスト』1590号(2023年11月号)130頁
・『金融法務事情』2155号(2021年2月10日号)77頁
・山下友信『保険法(上)』274頁、275頁
・松本恒雄「変額保険の勧誘と説明義務」『金融法務事情』1407号20頁
・大高満範『生命保険の法律相談(青林法律相談23)』240頁

■関連するブログ記事
・変額個人年金等の勧誘の際における金融機関の説明義務

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