
1.はじめに
最近話題となっている、学歴詐称問題の田久保真紀・伊東市長が、7月18日に市議会の百条委員会から卒業証書とされる書類の提出を拒否しただけでなく、本日(24日)は百条委員会に出頭して証言することも拒否したとのことです。しかし田久保市長のこのような対応は法的に可能なのでしょうか?
2.田久保市長の主張
NHKなどの報道によると、7月18日に田久保市長は、「刑事告発されており私自身の訴追につながる可能性がある」として、書類の提出を文書で拒否したとのことです。また、テレビ静岡の報道によると、24日には田久保市長は、「18日の文書で回答したとおり、当方には正当な理由があるので出席して証言することを拒否する」と文書で回答したとのことです。
つまり田久保市長は、「刑事訴追のおそれがあるので当方には正当な理由があり、百条委員会への書類の提出や出席、証言は拒否する」と主張していることになります。
3.地方自治法100条・憲法38条
この点、地方議会の百条委員会について定める地方自治法100条1項は、「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(略)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。」と規定しています。
そして、同条3項は、「第一項後段の規定により出頭又は記録の提出の請求を受けた選挙人その他の関係人が、正当の理由がないのに、議会に出頭せず若しくは記録を提出しないとき又は証言を拒んだときは、六箇月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。
つまり、出頭や記録の提出などを拒否した場合には、6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金という処罰の可能性がある一方で、「正当な理由」があれば出頭や記録の提出などを拒否できるという規定ぶりとなっています。
そしてこの点、本事案では「正当な理由」に「刑事訴追のおそれ」が含まれるのかが問題となりますが、地方自治法のコンメンタールを見てみると、この「正当な理由」についてはつぎのように解説されています。
「関係人は正当の理由なくして、出頭、証言、記録の提出を拒むことができないが、自己に不利な供述は強要されない(憲法38条1項)。この場合は自己に不利となる旨を述べれば足りるものと解される。」つまり、憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と自己負罪拒否権を規定しているので、「自己に不利な供述」は強要されず、百条委員会から関係者が出頭、証言、記録の提出を求められても、当該関係者が「自己に不利となる」としてそれを拒否することは、「正当な理由」があるとして、当該拒否は認められるということになります。
(松本英昭「新版 逐条地方自治法 第9次改訂版」392頁)
すなわち、田久保市長の記録の提出拒否や出頭・証言拒否は地方自治法100条3項との関係で適法ということになります。
しかしこのような結論は、市民感覚や正義との関係で妥当なのでしょうか。百条委員会や伊東市議会側には打つ手はないのでしょうか?
4.百条委員会や伊東市議会側には打つ手はないのか?
この点、地方自治法100条9項は、百条委員会は同条3項に反する関係者を刑事告発することができると規定しています。しかし、これは上でみた「正当な理由」との関係で実現可能性は疑問ではあります。また、議会は市長に対して、不信任決議を行うことができます。しかしこれに対しては市長は議会を解散することができるので、もろ刃の剣の策ではあります。さらに住民がリコール請求を行うことも可能ですが、これは実施のための要件がかなり厳格です。このように、田久保市長がこのように開き直ってしまっている本事案は、なかなか法的な解決が難しい事案のように思われます。
本事案は本質的には法的な問題というよりは、どちらかというと政治的な問題、すなわち田久保市長の政治的責任に関する問題のように思われます。田久保市長は出直し選挙を行う方針とのことであり、これまでこの不祥事について十分な説明責任を果たしてこなかった市長の姿勢について、伊東市の住民の審判を仰ぐことになります。伊東市の民主主義、地方自治、住民自治にこの問題の解決はかかっているように思われます。