(日本生命保険サイトより)
1.日本生命保険のポイントに関する不祥事
日本生命保険が保険契約者のポイントを同社職員が横領・着服するなど、東洋経済のスクープを受けて炎上中のようです。
・日本生命で発覚「客のポイント使い込み」の唖然|東洋経済
2.保険募集の観点から
そもそも保険会社が保険契約者等に特別な利益を与えて保険募集等を行うことは法律上、原則禁止されています(特別利益の提供、保険業法300条1項5号)。
保険契約上の重要な事実の不説明(重要事項の不告知)や告知書に事実を告げないことをそそのかすこと(不告知教唆)などと並んで、特定の顧客に対してだけ利益を与えて保険の募集・勧誘を行うことは、保険会社の営業において発生しやすく、保険制度の公平性をゆがめかねない不正な事項であるからです。保険業法300条1項はこれらの保険募集上の禁止事項を列挙しています。
そのため、生命保険会社等がポイントを顧客に付与してよいかは比較的最近の法的論点であり、グレーゾーンです。
*詳しくはこのブログ記事をご参照ください。
・保険会社が保険契約者等にポイントを交付することは保険業法上許されるのか?/特別利益の提供
つまり、ポイント制度は特別利益の提供という、保険会社の不正が発生しやすい保険募集上の禁止事項に関係するデリケートな部分であり、保険業法の急所の一つともいえます。週刊誌にスクープされ、監督官庁の金融庁の担当部署は激怒中なのではないでしょうか。
私は日本生命の関係者ではないので分かりませんが、上のブログ記事でみたように、日生がこのポイント制度を積極的に推進していることから、おそらく日生は、この保険業法300条の問題をクリアするために、正面突破的な方法として、約款・事業方法書など保険業の骨格となる基礎書類上の許認可を金融庁から得た上で、ポイント制度を運営してるのではないかと推測されます(保険業法4条2項)。
しかしもしそうであるならば、日生は金融庁の許認可に明確に違反して業務を行っていることになるので、事態は非常に深刻だと思われます。
3.個人情報保護・情報セキュリティの観点から
また、生命保険業は顧客の金融情報を取扱う金融業界の一角である上に、顧客の健康状態・傷病の状態などのセンシィティブ情報(要配慮個人情報)を業務の性質上取り扱うので、情報管理や情報セキュリティは非常に高いレベルが要求されます。
にもかかわらず、業界1位の日生が情報管理・情報セキュリティの面でこれでは、生保業界全体の社会的信用の問題として非常にまずいものがあります。金融庁は業界全社に類似の事案の有無などに関して、保険募集上および情報システム上の調査を指示するのではないかと思われます。
*なお、日生の不祥事とは事案が異なりますが、第一生命等のウェブサイトも、情報セキュリティの観点から残念な事象がみられるようです。
■関連するブログ記事
・第一生命保険の「ご契約者専用サイト」の初期設定登録がセキュリティ的にひどい件
4.まとめ
このように、今回の不祥事について日生は、保険募集および情報管理・個人情報保護上の不祥事件として保険業法に基づく報告(不祥事件届出)を行い、金融庁・個人情報保護委員会が行政処分・行政指導を出す可能性があります(保険業法127条1項、同100条の2、同306条、個人情報保護法20条、保険業法施行規則85条5項、同53条の8、保険監督指針II-6、II -4-4-1-2(13))。
■参考文献
・錦野裕宗・稲田行祐『保険業法の読み方 三訂版』95頁、162頁、269頁
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』165頁、316頁、340頁