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練馬区が親と学校の生徒の子どもに、家庭のSNSルールを作成させ、学校に提出させるプリントに、子どものSNSのパスワードの記入欄があることは、情報セキュリティの観点から問題なだけでなく、子どもや親の自己決定権やプライバシー権、不正アクセス禁止法などの観点からも問題である。

1.練馬区が、親子が家庭のSNSルールを話し合い学校に提出させるプリントにSNSのパスワードの記入欄があることが炎上
11月30日に、Twitter上である練馬区の中学生の子どもの親の方がつぎのような怒りのツイートをなさり、Twitter上で注目されています。
ちょっと、アホすぎて人権侵害すぎて言葉がないんだけど。
練馬区の中学校からのプリントで、「我が家のSNSルールを保護者と話し合ってかけ」「終わったら学校に提出しろ」ってやつに、「SNSパスワードを書け」って欄があるのだけど。
なに考えてんだ!?
私的領域への越権行為も甚だしい!

snsルール1

そしてこの方の前後のツイートによると、問題となっている練馬区の家庭のSNSルールのプリントとはつぎのようなものとのことです。

SNS練馬区ルール2
SNS練馬区ルール1
・令和元年度第2回練馬区いじめ等対応支援チーム【教育指導課】(令和2年1月15日)|練馬区
・【資料7】「SNS練馬区ルール~自分も相手も守る10の決意~」リーフレット(案)(PDF)|練馬区

この練馬区教育委員会「SNS練馬区ルール」の資料によると、たしかに練馬区教育委員会が区内の学校に対して、親子に家庭のSNSルールを話し合わせ、作成させて提出を求める「SNS練馬区ルール~自分と相手を守る10の決意~」とのプリントの、「我が家のSNSルール 簡易作成シート」の上から4番目には、たしかに「SNSのパスワードは__です。このパスワードは(  (例)家族で)共有します。」との記入欄があります。

これは冒頭の親の方のお怒りもごもっともとしかいいようがありません。

2.情報セキュリティの観点から
たしかに近年、SNSを子どもが利用して、いわゆる「出会い系」などの犯罪にあってしまったり、いじめ被害を受けることなどが大きな社会問題となっています。

そのため、内閣府サイトをみると、内閣府の「子供・若者育成支援」部門の「青少年有害環境対策」担当は、「ネットの危険から子どもを守るために」との施策のサイトのなかで、「子供たちが安全に安心してインターネットを利用できるように家庭でのルール作りの例、フィルタリングの概要、改正青少年インターネット環境整備法等について紹介します」との「保護者向け普及啓発リーフレット「ネットの危険からお子様を守るために 今、保護者ができること」」との資料のPDFファイルを公開しています。

この内閣府「保護者向け普及啓発リーフレット「ネットの危険からお子様を守るために 今、保護者ができること」」のリーフレットの2ページ目はつぎのようになっています。

内閣府リーフレット
(内閣府サイトより)
・ネットの危険から子供を守るために > 保護者の皆さまへ|内閣府

そのため、小学校・中学校などで、子どもをSNSやネットの犯罪やいじめ被害などから守るために、親子でそれぞれの家庭内のSNS利用のルールを話し合い、そのルールを作成するという政策はたしかに内閣府などが実施しているようです。

しかし、この内閣府のリーフレットにも、親子で話し合った家庭のSNSルールをプリントに書いて学校や教育員会に提出せよとは一言もかかれていません。また、この内閣府のリーフレットの2ページ目の一番下の「STEP4 レベルアップ期」の右側のチェック項目には、「他人にIDやパスワードは絶対に教えません。」と明記されています。

内閣府リーフレット2

むしろ内閣府のこのリーフレットは、3ページ目で、携帯電話各社が用意している、フィルタリングの活用を奨励しています。
内閣府フィルタリング


この点、経産省の傘下組織で、民間企業などに対する情報セキュリティのガイドラインの作成や、情報セキュリティに関する国家資格の運営などを行っている、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)のウェブサイトの「情報セキュリティ」に関するページの「個人の方」の中の「3つのセキュリティポイント」は、「ポイント2:パスワードは絶対に他人に教えない」としています。また、IPAサイトの「今パスワードが危ない!ちょこっとプラス パスワード あなたは大丈夫?」との解説ページも、「他人に一度でもパスワードを教えたことがある」パスワードは危険であるとしています。

IPAパスワード
(IPAサイトより)
・3つのセキュリティポイント|IPA
・チョコっとプラスパスワード|IPA

このように内閣府やIPAのサイトなどをみてみると、練馬区の教育委員会が、親子に家庭でSNSの利用のルールを話し合わせることは内閣府などの政策に合致していると思われますが、しかし親子で話し合った家庭のSNSルールをプリントに書いて学校や教育委員会に提出させることは、内閣府のサイトにも記述がなく、むしろ親の子どもに対する教育やしつけに関する自己決定権(憲法13条)や親や子どものプライバシー権(憲法13条)を侵害する、練馬区という公権力による個人や家庭への不当な介入のおそれがあるのではないでしょうか。

また、練馬区は「SNS練馬区ルール」において、親と子どもが家庭のSNSルールを話し合った結果をプリントに書いて提出させる際に、SNSのパスワードを記載して学校に提出すること、そしてSNSのパスワードは家族で共有することを要求していますが、これは上でみた内閣府やIPAのサイトやガイドラインなどに明らかに違反しています。

情報セキュリティ保護の観点からは、子どもであっても「IDやパスワードは絶対に他人に教えない」べきであり、また家族であってもSNSのパスワードを安易に共有すべきではないのではないでしょうか。

このように、学校の子どもの親と子どもに家庭のSNS利用のルールを話し合わせ、その結果をプリントに書いて学校・教育委員会に提出すること、そしてそのSNSルールのプリントにSNSのパスワードの記載をすることを要求している練馬区は、内閣府などの子ども・若者政策部門の実施していない施策を実施しており、親の子どもの家庭内の教育やしつけに関する自己決定権や、親や子どものプライバシー権(憲法13条)を侵害しているおそれがあり、また、SNSのパスワードをプリントに書いて学校・教育委員会に提出を求めていることと、家族でSNSパスワードを共有することを求めていることは、情報セキュリティの保護の観点から間違っていると思われます。

3.不正アクセス禁止法違反のおそれ?
ところで、この練馬区の問題は、どうして同区の教育委員会が、SNSルールのプリントに、家庭のSNSルール(これも問題がありますが)だけでなく、SNSのパスワードを記入して学校・教育委員会に提出することを求めているのかが気になります。

この点、1999年に制定された不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)は、大まかにいうと、ネットワークを通じて、他人のIDやパスワードなどの識別符号を不正に入力して他人になりすましてコンピュータを利用できる状態にする行為や、コンピュータの弱点(セキュリティホール)を突いて不正にアクセスし、他人のコンピュータを利用できる状態にする行為(不正アクセス行為)を禁止しています(法2条4項1号~3号)。(西田典之・橋爪隆補訂『刑法各論 第7版』145頁)

そして、2012年(平成24年)の法改正で、IDやパスワードなどの識別符号を不正に取得する行為や、いわゆるフィッシング行為が処罰の対象になりました。つまり、不正アクセス行為の用に供する目的で、他人の識別符号を取得する行為(同法4条、12条1号)と、不正に取得された他人の識別符号を保管する行為(同法6条、12条3項)が処罰対象となりました。(西田・橋爪・前掲146頁)

したがって、ここから先は仮定の話となりますが、「SNS練馬区ルール」に関して、もし練馬区の教育委員会が、生徒・子どものSNSのパスワードを、生徒・子どものSNSなどにおける書き込みや人間関係などを確認や把握する等のために、教育委員会の職員などが、生徒・子どもに「なりすまし」て、生徒・子どもにかわってSNSにアクセスするためにSNSのパスワードをプリントに記入して提出することを求めているとしたら、それは「不正アクセス行為」のために「他人の識別符号を取得する行為」や「不正に取得された他人の識別符号を保管する行為」に該当するため、不正アクセス禁止法違反であり、処罰の対象となります。

そのため、一体何のために練馬区教育委員会が、生徒等のSNSのパスワードの提供を求めていたのかが問題となります。

警察庁は本年5月に、SNSをAI捜査するシステムの導入を公表するなど、警察庁・警視庁はサイバー犯罪への対応を強化していますが、警視庁などは練馬区教育員会などに事情を聞くなど、取り調べる必要はないのでしょうか。

(関連記事)
・警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを法的に考えた-プライバシー・表現の自由・GPS捜査

4.親や子どもの自己決定権やプライバシー権など憲法の基本的人権の観点から
この練馬区の問題で連想されるのは、2020年3月に成立し、同年4月から施行された香川県ゲーム条例です(香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(令和2年香川県条例第24号))。

同条例18条2項は、「子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること」や、「スマートフォン等の使用(略)に当たっては、義務教育終了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめること」などを保護者に努力義務として課しています。

このような努力義務とはいえ厳しい基準の規定が、戦前のような国家主義・全体主義ではなく、自由な民主主義を定める現行憲法下の日本において、公権力による家庭への不当な介入ではないのか、そもそも「ネット・ゲーム依存症」というものが医学的・科学的に正しいものなのか、などが大きな社会的注目を集めました。

そしてこの香川県ゲーム条例に対しては、①親の子どものしつけや教育などの自己決定権(憲法13条)やプライバシー権の侵害(憲法13条)であること、②子ども自身が1日どのくらいゲームをするか自己決定するという自己決定権の侵害や、子どものゲームをする権利(憲法13条の定める幸福追求権から導き出される新しい人権)や子どものプライバシー権の侵害、③そして政府が「ネット・ゲーム依存症」を公式に認めておらず、国会がゲーム規制法を制定していない現状で、香川県が「ネット・ゲーム依存症」の防止と称して、子どものゲームやスマホの利用を規制する条例を制定することが、自治体は「法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定している憲法94条違反であるとして、現在、高松地裁で訴訟が行われているところです。
・「ゲーム条例は憲法違反で人権侵害」高校生と母親が香川県を提訴へ|KSB瀬戸内海放送ニュース

(関連記事)
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案を法的に考えた-自己決定権・条例の限界・憲法94条・ゲーム規制条例

この香川県ゲーム条例訴訟の行方も大いに気になりますが、練馬区のこの「SNS練馬区ルール」の取組も、子どもをネットやSNSの弊害から守るためと称して、練馬区という自治体が、情報セキュリティの知識もあいまいなままネットやSNSを「悪者」として、憲法や法令、子どもや親の自己決定権やプライバシー権(憲法13条)などを軽視して暴走し、違法・不当に公権力たる練馬区が家庭に介入しているといえるのではないでしょうか。

5.まとめ
練馬区は情報セキュリティの知識や、憲法、不正アクセス禁止法などの条文などを再確認し、自治体・教育委員会や学校が子どもや家庭に対して行うことができることと、できないことの再確認を実施する必要があるのではないでしょうか。公権力の個人や家庭への違法・不当な介入は、個人の尊重と基本的人権の確立を国家の目的(憲法11条、97条)とする民主主義・近代立憲主義の現行憲法が固く戒めるところです。

■追記(2021年12月4日)
12月3日付の弁護士ドットコムニュースが、この練馬区のSNSルールの件を取り上げました。
・生徒に「SNSのパスワード」を提出させる…練馬区の中学校でミス、教育委員会が謝罪|弁護士ドットコムニュース

この記事によると、練馬区教育委員会内でも生徒のパスワードを記入させたプリントを学校に提出させることは問題があるとの意見があったため、パスワードの欄は記入しないでプリントを提出するよう学校に指示したところ、ある中学校がそれを失念し、パスワードを記入したプリントを受け取ってしまったとのことです。そして、誤って収集してしまったパスワードは276人分のものだったとのことです。

この点、練馬区個人情報保護条例7条(適正取得の原則)は、練馬区の行政機関に対して『実施機関は、個人情報を収集するときは、(略)利用する業務の目的を明確にし、その業務の目的の達成に必要な最小限の範囲内で、適法かつ公正な手段によって本人から直接収集しなければならない。』と規定しています。

練馬区個人情報保護条例7条
(練馬区個人情報保護条例7条。練馬区サイトより)

つまり、同条例7条は、練馬区の行政機関が個人情報を収集する場合は、その利用目的を明確に定め、その利用目的の達成に必要な最小限の範囲内で個人情報の収集をすることを定めているため、今回の事件では、練馬区教育委員会はそもそもその業務のために必要でない生徒のパスワードという個人情報を収集してしまっているので、同条例7条違反であると思われます。

なお、弁護士ドットコムニュースの記事によると、練馬区教育委員会は、「提出された生徒のリーフレットは、学校の「鍵のかかる場所」で保管し、各家庭に直接返却をおこなっているため、パスワードの漏洩は発生していないとしている。」と説明しているとのことですが、SNSのパスワードを学校に提出してしまった276人の生徒とその親に対しては、練馬区教育委員会と中学校は、情報セキュリティの観点から、SNSのパスワードの変更を実施するよう要請すべきであると思われます。

■追記(2021年12月10日)
12月10日付の朝日新聞の記事がこの事件を取り上げていました。
・(フカボリ)子のSNSパスワード、知るべきか 東京・練馬「家族で共有」記入させ提出…謝罪|朝日新聞

しかしこの朝日新聞の記事は、つぎの兵庫県立大学准教授竹内和雄氏(教職)のコメントにあるように、「子どもが中学生までは親がSNSのパスワードなども含めて管理すべきだ」という、かなり保守的というか、まるで昭和時代の「PTAの教育ママ」ようなトーンのようです。

■中学生までは、ルール設け関与を
兵庫県立大学准教授の竹内和雄氏(教職)のコメント
 子どものスマホ利用の問題に詳しい竹内和雄・兵庫県立大准教授は「子どものSNS利用をパスワードを含め保護者が管理するように学校が促すことは必要」とし、区教委に理解を示す。

 犯罪に巻き込まれる恐れのほか、子ども自身が不適切な内容を投稿して将来の就職活動などで不利益を被るケースも理由に挙げる。「中学生の頃までは、パスワードも含めてSNS利用は保護者が積極的に関与する必要がある。ただ、親子でよく話し合いルールを定め、子どもの納得感も得られるのが望ましい」と話す。

 たとえば、普段はLINEの投稿内容をチェックしないが、帰宅時間が遅いなど保護者が危険を感じた際はチェックすることもある、といったルールを決めておくことを提案する。
(「(フカボリ)子のSNSパスワード、知るべきか 東京・練馬「家族で共有」記入させ提出…謝罪」2021年12月10日付朝日新聞より)

たしかに家族法上、親には子どもに対して、子どもの福祉のために、監護権、教育権、財産管理権などの親権(民法820条)を持っています。この親権は、かつては親(父)が子を権力的に支配する権利で、子はそれに服従するべきだと考えられてきたところ、20世紀以降、子どもを権利の主体と正面から認めて、親権は子どもの利益、子どもの福祉を守る面が重視され、親権は子の利益を守る親の義務と考えられるようになってきたとされています(二宮周平『家族法 第4版』207頁)。

さらに1989年に国連で採択され日本も批准している「子どもの権利条約」は、子どもの利益を守るといっても、それは子どもが未熟、未発達だから保護するのではなく、子ども自身に発達し成長する権利があり、親や国はそれを援助する義務があるとする考え方を採っています(二宮・前掲207頁)。

そして、子どもも国民の一人である以上、プライバシー権や自己決定権(憲法13条)や、SNSやスマホなどで情報を発信したり受信したりする表現の自由(同21条1項)、通信の秘密(同21条2項)などの基本的人権を有しています。

子どもの権利条約も、第16条1項は「いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」と子どものプライバシー権や通信の秘密などを規定し、それらの人権が恣意的または不法に干渉される等してはならないと規定しています。

また同13条1項は「児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」と、子どもの表現の自由や、「情報および考えを求め、受けおよび伝える自由」などの人権を有していると規定しており、同2項は、これらの子どもの人権は、「(a)他の者の権利又は信用の尊重」「(b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」の目的のためのみに「法律」を根拠として規制が許されると規定しいます。

そのため、子どもの安全や健康などを守るために、親が子どものSNSなどに関与することが許容されるとしても、それは子どものプライバシー権、表現の自由、通信の秘密などの基本的人権への制約である以上、パターナリスティックな制約であり、子どもの個別の発達段階に応じてできるだけ抑制的な必要最低限の関与や制約が求められると思われます。

民事上、ある個人が何か物を買ったりするための前提となる意思能力(自己の行為の結果を弁識するに足りるだけの精神能力)はおおむね14歳、15歳から認められるが個別具体的な判断が必要とされます。また、刑事上、犯罪の刑事責任を問われる刑事責任能力については、刑法が14歳未満は処罰しないと規定しています(刑法41条)。さらに、家族法関係では、家事事件手続法169条1項1号などが、親の親権停止や親権喪失の審判などにおいて、15歳以上の子どもの意見を聴取しなければならないと規定しています。

このように、それぞれの法律ごとに趣旨・目的が異なるため、ばらつきはあるものの、おおむね14歳、15歳であれば子どもであってもその意思や意見を成人と同様に扱うと民法、刑法、家族法などは規定しており、裁判例はとくに意思能力について、子どもごとの個別具体的な判断が必要であるとしています。

したがって、上の朝日新聞の記事の竹内和雄・兵庫県立大学准教授のコメントの、「中学生まではパスワードを含めた親の関与が必要」としている点は、小学生くらいまでならともかく、14歳、15歳の中学生の子どもに対して一律にパスワードなどを親が知っているべきとすることは、子どものプライバシー権や通信の秘密などへの介入・規制として、やや強すぎるのではないかと思われます。

また、竹内准教授のコメントは、「普段はLINEの投稿内容をチェックしないが、帰宅時間が遅いなど保護者が危険を感じた際はチェックすることもある、といったルールを決めておく」としていることは、LINEは通常は、「5ちゃんねる」やFacebookやTwitterなどの比較的多数の人間とのやり取りをするSNSではなく、1対1などの関係のやり取りをするSNSであることを考えると、その秘匿性・私事性はより高いと思われ、これは1対1の電子メールや、鍵のかかった家具に保存している日記などを、本人以外の者がそのPCのパスワードで起動したり家具の鍵を開けて、閲覧するようなものであり、プライバシー権や通信の秘密との関係でやや「やりすぎ」、「親の過剰な介入」なのではないでしょうか。

中学生の子どもに対して、パスワードを親と共有したり、場合によっては中学生の子どものLINEを親が閲覧すること等の強硬手段に出る前に、まずは内閣府の保護者向け資料が奨励するように、携帯キャリア各社が用意しているスマホのフィルタリングなどを活用すべきなのではないでしょうか。


上でもみた内閣府の「保護者向け普及啓発リーフレット「ネットの危険から子供を守るために」」 2頁目「家庭のルールを考えましょう」も、子どもの年齢や発達段階に応じて4段階に分けて、「家族のルール」の例を示していますが、おそらく小学生が対象であろう一番最初の「初めてのインターネット期」から一番最後の「SNSレベルアップ期」すべての例示をみても、「親が子どもとパスワードを共有する」であるとか、「親が危険と感じたら、本人の同意なしに、子のパスワードを使用して子どものLINEなどのSNSのなかのメッセージなどを閲覧してよい」とは記載されていません。むしろ「SNSレベルアップ期」には、「他人にIDやパスワードは絶対に教えません。」との例が明示されています。そしてこの内閣府の保護者向け資料は3ページ目で、携帯キャリア各社が用意しているスマホのフィルタリングなどを活用することを奨励しています。
内閣府リーフレット
(内閣府サイトより)
・ネットの危険から子供を守るために > 保護者の皆さまへ|内閣府

竹内准教授のご本人のウェブサイトを拝見すると、竹内氏は中学校で約20年間教師を勤めたあとに2012年から学者となったと記されておりご年齢から、ITや情報セキュリティ、憲法の基本的人権や、教育法、家族法や子どもの権利条約などに関する最近の状況にあまりお詳しくない可能性があるのではないでしょうか。

上でもみたとおり、親の親権は、19世紀ごろまでは親の子どもの支配権であったものが、現在では、子どもを権利の主体として、子どもの発達や成長を親や国・自治体などが援助することと考えられています。そのため、子どものSNSなどの利用に対して親や学校などが関与・介入することがパターナリズムとして許容されるとしても、それが、親や学校が子どものSNSやパスワードなどの子どもの表現の自由、通信の秘密やプライバシーなどを支配・管理するものであっては本末転倒なのではないでしょうか。

少なくとも練馬区の事件のように、教育委員会や中学校が親と子どもにSNSのパスワードの提出を求めるであるとか、親と子どもでSNSのパスワードを共有すること要求すること等は、情報セキュリティや個人情報保護法、憲法や家族法などの観点から、完全に違法・不当な行為であると思われます。

なお、朝日新聞をはじめ最近のマスメディアの多くは、時事問題の報道において、社会学者やフェミニスト、人文系の学者の先生方にコメントを求めることが非常に多くなっている一方で、法律学者などに対して取材して報道する記事が非常に少なくなっていると、読者として個人的に感じています。社会学や人文学も重要ですが、法律学も社会の問題を考える上で重要な学問分野です。

朝日新聞などのマスメディアは、この練馬区の事件のように、教育学だけでなく、情報セキュリティや個人情報保護法、情報法、憲法や家族法などが関係する問題に関しては、教育学の専門家にコメントを求めるだけでなく、法律学などの専門家にもコメントを求めるべきではないでしょうか。

■参考文献
・西田典之・橋爪隆補訂『刑法各論 第7版』145頁
・二宮周平『家族法 第4版』207頁
・荒牧重人・西原博史など『新基本法コンメンタール 教育関係法』408頁、410頁

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いらすとやパソコン
内閣府の子供・若者育成支援担当部門が3月15日までパブコメ手続きを行っていた、「子供・若者育成支援推進大綱(案)」ネット依存症・ゲーム依存症などに関する部分がツイッターなどネット上で炎上していたので、私もパブコメ意見を作成し提出してみました。

・子供・若者育成支援推進大綱(案)に対する意見募集について|内閣府

ネット上でとくに注目されたのは、この「(3)子供・若者を取り巻く有害環境等への対応」「(ネット依存等への対応)」の部分(大綱案47頁)です。つまり、「ネット依存(オンラインゲームへの依存を含む)の傾向が見られる青少年に対しては、青少年教育施設等を活用した自然体験宿泊体験プログラムなどの取組を推進する」としている部分です。

内閣府子供若者育成支援大綱ゲーム依存ネット依存

私はつぎのようなパブコメ意見を提出しました。

●ネット依存症・ゲーム依存症、フィルタリング、Edutech・Child-Youth Techなどについて
「ネット依存等への対応」(47頁)について
「ネット依存症・ゲーム依存症の傾向がみられる青少年に対しては、青少年教育施設等を活用した自然体験や宿泊体験プログラムなどの取組を推進する」とのことであるが、依存症治療は20世紀以降、医学的に、依存症患者が自助会において自らの依存症の体験を話し合い共有することがコアな部分となっている。これはアルコール依存症・薬物依存症・ギャンブル依存症などの各依存症に共通の医学的・科学的な治療法である。

そのため、ネット依存症・ゲーム依存症に関してだけは、依存症患者を「青少年教育施設等を活用した自然体験や宿泊体験プログラム」を実施するという内閣府の本大綱(案)の方針は、医学的・科学的なものではないので取消・撤回を求める。

(かつてのナチス・ドイツは、国民・青少年を国家主義・全体主義的な思想に矯正・教化するために、自然や郊外でのスポーツやレジャー、キャンプなどを推進したが、「ネット依存症の傾向のみられる青少年に自然体験・宿泊体験などを推進する」というこの内閣府の方針には、国家主義・全体主義の傾向が感じられる。)

さらに、「ネット依存症・ゲーム依存症の傾向がみられる青少年」という表現には、政府の「ネットやゲームを長時間行うことは良くない」という古い道徳的価値判断・あるいは政治的・思想的な価値判断が含まれているのではないか。わが国は個人の尊重・国民の基本的人権の確立を国家の目的とする理念を掲げる近代民主主義国家であるから(憲法11条、97条)、国民・青少年が日々の生活においてどのような活動・行動をするか、どのような分野の活動を自分の趣味とするか、どのようなライフスタイルを選択するか等は国民・青少年の個人の自己決定権(憲法13条)に属する事柄であり、国・自治体が安易に特定の価値観を国民・青少年に押し付けることは近代民主主義および憲法の理念に反するので、そのような本大綱(案)の施策・方針は取消・撤回を求める。

(同様に、子供のゲーム時間を一日1時間に制限し自然体験などを奨励する、香川県の「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(令和2年香川県条例第24号)も、非医学的・非科学的な内容であるだけでなく、子供およびその親の自己決定権等の基本的人権を侵害するものであるから、内閣府を含む国・関係機関は、香川県に対して、同条例を廃止するように助言・指導などの関与を行うべきである。)

加えて、「ネット依存症・ゲーム依存症の傾向がみられる青少年」という表現には、「ネットやゲームを長時間行うことは良くない」という意味が込められているようであるが、依存症とは医学的に医師等が診察をして診断・治療を行うものであり、また依存症とは社会的差別の原因となりやすい疾病・障害であり、さらに依存症は死亡リスクの極めて高い重篤な疾患・障害なのであるから、「依存症傾向のみられる」などのあいまいで大雑把な表現や分類を政府が行うことは厳にひかえるべきである。

そもそも、本大綱(案)は全体を通して、子ども・若者・青少年に対して、繰り返し「理系に強い人材が欲しい、IT・ネット・プログラミング等に強い人材が欲しい」と求めているにもかかわらず、青少年がコンピュータやスマートフォン、インターネット・ゲーム等に日々親しみ、それらのITやネットに関する専門知識・ノウハウを自分のものとすることに対して内閣府が本大綱(案)で否定的評価を行うことは支離滅裂であり、矛盾している。

したがって、この「ネット依存等への対応」は全面的に取消・撤回を求める。

「子供・若者の成長のための社会環境の整備」(18頁)について
子供・若者をネットやSNSの犯罪被害から守るためとして、フィルタリングやペアレントコントロールなどを推進するとされているところ、青少年をネット上の犯罪被害・消費者被害から守ることはもちろん重要ではあるものの、憲法21条は「表現の自由」(1項)、「通信の秘密」「検閲の禁止」(2項)を定め、電気通信事業法4条なども「通信の秘密」を定めているところである。また、憲法22条、29条は「営業の自由」を定めている。さらに、日本も批准する子どもの権利条約は、青少年に表現の自由と表現や情報を受ける権利があることを明示している(13条1項)。加えて、青少年がどのようなサイトを見るか、どのような漫画・ゲームなどを読んだり遊んだりするかなどの自己の私的な領域については自分で決める権利(自己決定権)を有している(憲法13条)。国・自治体にパターナリズムに基づく規制が一定レベルで許容されるとしても、それは青少年の生命・身体への現実的危険がある場合など制限的な場合にとどまる。同時に、自分の子供をどのようにしつけ、育てるか、どのような家庭を形成するかについては親の自己決定権(憲法13条)に属する事柄であり、これも安易に国・自治体が介入する事柄ではない。

したがって、フィルタリング、ペアレントコントロール、海賊版対策のためのサイトブロッキング、アクセス警告方式などの各施策は、「表現の自由」「通信の秘密」「検閲の禁止」、そして事業者の「営業の自由」や「営利的表現の自由」などの憲法や各法律の規定する自由権・人権の憲法上の基本理念を十分に配慮し、慎重にも慎重な対応が求められる。児童ポルノ事案などにように具体的・現実的に青少年の生命・身体・人格に危害がおよぶことを防止する場合は規制が許容されるとしても、「政府与党からみて、このようなネット・漫画・ゲーム・アニメ等の表現内容は好ましくない」等の漠然あるいは不明確な理由により、ネットへのフィルタリング、ペアレントコントロール、サイトブロッキング、アクセス警告方式などの各政策が安易に実施されることは許されない。

 そのため、「子供・若者をネットやSNSの犯罪被害から守るためとして、フィルタリングやペアレントコントロールなどを推進」とする本大綱(案)の本部分については、憲法や電気通信事業法などの関係法令に即して、慎重にも慎重な取り組みを求める。これはネット以外のリアル社会における漫画・ゲーム・アニメなどに対しても同様である。

(なお、ネット上の漫画等の海賊版対策として、総務省の監督・指示のもとに、民間ウイルス対策企業等がフィルタリング・サイトブロッキングなどの手法で海賊版対策を行う施策が検討・推進されているが、出版社などの著作権法上の経済的利益を守るために、国民の知る権利や表現の自由(憲法21条1項)、通信の秘密(同2項)などの国民の精神的人権を大きく侵害する施策を実施することは違法・違憲である(安心ネットづくり促進協議会「法的問題検討サブワーキング報告書」20頁、知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版対策における検討会議」(2018年)、曽我部真裕・森秀弥・栗田昌裕「情報法概説 第2版」56頁)。にもかかわらず、国が国会審議や立法手当も経ずに海賊版対策の政策を推進することは、法律に基づく行政の原則・法治主義や民主主義の観点から大いに問題である。総務省の当該施策は中止を求める。)

■関連するブログ記事
・香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案を法的に考えた-自己決定権・条例の限界・憲法94条・ゲーム規制条例
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密
・ネット上のマンガ海賊版サイト対策としてのアクセス警告方式を考える-通信の秘密
・『週刊東洋経済』2021年3月6日号の改正個人情報保護法の解説記事を読んでみた



情報法概説 第2版

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smartphone_schoolboy_walk
1.香川県ネット・ゲーム依存症対策(規制)条例素案
社会的に大きな批判を集めている、香川県議会の、県の子どもをネット・ゲーム依存症から守るためにネット・ゲームに大幅な規制を行おうとする、「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案」が、1月23日よりパブリックコメントが開始されています。(2月6日まで)

・香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案(pdf)|香川県サイト

2.公権力の家庭への介入?
この香川県議会ネット・ゲーム依存症対策条例案(以下「本条例案」とする)、ざっと読んだだけでもなかなかすごいものがあります。

香川県親01
(香川県サイトより)
本条例案は、幼児を育てる保護者(親など)に対して、時間をとって幼児の親への「安定した愛着」を育む義務や屋外で遊ばせる努力義務を課しています(本条例案6条2項)。

また、本条例案は、保護者が子ども対してスマホ等の利用にあたって、フィルタリンソフトなどを設定し、子どものスマホ利用を管理することを法的義務としています(本条例案6条3項)。

わが国が自由主義国家である以上、子どもを含む個人がプライベートな私的領域における時間・場所に何をするかについては、本人の判断の判断にゆだねられるべきものです。親などの保護者が家庭内において子どもにどのような指導や教育を行うかについても、保護者の家族に関する自己決定権にゆだねられるべきものです(自己決定権・憲法13条)。国や自治体が法律や条例で介入するべきものとは思われません。

発育の途中であり判断能力が十分でない子どもに対して、国などが例えば、飲酒・喫煙などを一定の範囲で規制する「パターナリスティックな制約」という子どもの自己決定権への介入を行うことはあります。しかし、香川県の本条例案のように、子どもの年齢や社会的属性などをまったく考慮せず一律に「ゲームは1日60分、スマホは午後9時まで」と規制するやり方は、規制が一律かつ広範囲すぎるものであり、パターナリスティックな制約では説明がつかない違法・不当なものと思われます。

3.国・病院・IT企業・学校の協力義務
また、本条例案11条の事業者の責務の条文をみると、ゲームソフト会社・プロバイダ・キャリア・携帯代理店などの事業者に対して、子どもがゲーム依存症にならないようにする責務規定であるとか、あるいは、「エロ」・「暴力」表現を自主規制しろという表現の自由(憲法21条1項)を規制する内容の条文も盛り込まれています。香川県議会やりたい放題です。

香川県11条
(香川県サイトより)

香川県はゲーム依存症について正確な情報に基づいて指導・啓発してやるから子ども・保護者・学校は従えとの上から目線的な考え方も目につきます。病院・医療機関・ゲーム会社・IT企業・プロバイダ等は県への「協力義務」をおうとも強調されています。さらに、県や市に協力する「県民の義務」などの文言もあちこちに散見されます。加えて、「香川県は国に対して、ゲーム依存症対策のための立法措置や指針の制定を求める」という趣旨の条文も存在します。

香川県は国民・住民主権の自由主義・民主主義の国ではなく、戦前の日本のような国家主権国家なのでしょうか?

4.ネット依存症・ゲーム依存症とは-国立久里浜病院のネット依存症治療部門
そもそも、ゲーム依存症・ネット依存症などは新しい疾病ですが、香川県は正確な情報を持ったうえで本条例案を制定しようとしているのでしょうか。

この点、わが国の依存症治療の先駆的な拠点の一つである、国立久里浜病院(久里浜医療センター)のネット依存・オンラインゲーム依存に対応するインターネット依存症治療部門 (TIAR)のウェブサイトによると、ネット依存について、

「インターネットに過度に没入してしまうあまり、コンピューターや携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感じること、また実生活における人間関係を煩わしく感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に弊害が生じているにも関わらず、インターネットに精神的に嗜癖してしまう状態」との定義が紹介されています。

・インターネット依存症治療部門 (TIAR)|久里浜医療センター

そして、同サイトはネット依存症・ゲーム依存症の治療について、「インターネット嗜癖そのものには確立された治療法はありません。また、重症の嗜癖の場合には、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題を抱えており、そこからの逃避の場合もあります。」と解説しています。

そして、同病院では、
ネット依存症・ゲーム依存症の患者に対して、

1.バトミントンや卓球などの運動、美術等、インターネットや機械を使用せず、みんなで行うゲーム
2.医師や看護師、栄養士、作業療法士等による睡眠、運動、栄養、依存、健康問題等についてのレクチャー
3.ネット依存を様々な角度から話し合う小ミーティング
4.希望者には、臨床心理士による対人関係に関する訓練

などの医療プログラムが提供されているそうです。

このように久里浜病院によると、ネット依存症・ゲーム依存症は、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題が背景となっている場合が多いのであり、同病院の治療は、スポーツで体を動かすトレーニングから、病気の授業、当事者のミーティング、心理的なカウンセリングなど多岐にわたっています。

それに対して、香川県の本条例案は、ネット・ゲーム依存症への対策として「子どもはゲーム60分、スマホは午後9時まで」と一律の禁止規定をおき、「屋外で遊ぶこと」を奨励するのみです。本条例案の目的・趣旨がネット・ゲーム依存症対策であるとしても、香川県議会がネット・ゲーム依存症に関する正しい知識・理解に基づいて条例案を作成しているとは思われません。

5.条例の限界-景表法・青少年ネット条例・憲法94条
1月27日付の「ねとらぼ」は、香川県の本条例案の作成者の一人である社民党系の高田よしのり議員の記事を掲載しています。

・香川のゲーム依存症対策条例、本当の狙いは「ガチャ規制」? 検討委員が「理解してもらえない。残念」とブログで語る|ねとらぼ

同記事によると、本条例案の真のねらい・目的は、スマホゲームのなかでもとくに「ガチャ規制」であるそうです。

しかし、本条例案には、「ガチャを規制する」などの文言は存在しません。とはいえ、かりに本当に本条例案の目的が「ガチャ規制」であるならば、すでに国がガチャ規制の条文を盛り込んでいる景品表示法と本条例案との関係が問題となります。

憲法は、「地方公共団体は、(略)法律の範囲内で条例を制定することができる。」(94条)と規定しており、この「法律の範囲内」の意味が問題となります。

この点について裁判所は、
『条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによってこれを決しなければならない。

例えば、(略)両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はな(い)』(徳島市公安条例事件・最高裁昭和50年9月10日判決)

と判断しています。

ここでガチャ規制に関する景表法2条・4条と同告示をみると、法規制の対象はあくまでもゲーム事業者であり、利用者・ユーザー側の子ども等は対象となっていません。これは、景表法はガチャを規制するにあたり、ゲーム会社など事業者側を規制すれば十分であり、利用者の子どもなど国民のゲーム時間など私的領域には踏み込むべきではないと考えたものと思われます。それに対して、香川県の本条例案は、ガチャ規制という目的のために、事業者への義務を課すと同時に利用者である子どもやその親にも私的領域に係る法的義務を課しており、これは「法律の範囲内」を超えるものであり、違憲・違法のおそれがあります(憲法94条)。

(なお、青少年ネット規制法も本条例案との関係で問題となると思われますが、青少年ネット規制法はネット上の有害な情報から子どもを守るために、主にフィルタリングを利用することを子ども等に奨励する法律であり、「ゲームは60分、スマホは午後9時まで」と子どもの権利利益を厳しく規制する本条例案は、この法律との関係でも「法律の範囲内」を踏み越えており、違法と考えられます。)

あるいは、私的領域のプライベートな時間・場所におけるネットやゲームという精神的活動や、親の子育ての在り方に自治体が規制を行うという本条例案は、県民の権利利益への規制というよりは、日本全体の全国民の基本的人権への公権力からの規制の在り方として検討が行われるべきです(憲法41条、芦部信喜『憲法[第6版]』371頁)。つまり、県議会で条例として審議するだけでは足りず、国会で慎重に審議を行い、必要であれば法律を作って対応すべきです。

香川県議会の本条例案の制定の動きは、非常に前のめりで軽率であるといえます。

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