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タグ:著作権

2023年11月の知財検定(知的財産管理技能検定)の3級に合格したので、勉強方法について書いてみます。
知財検定3級合格

勉強については、2か月ほど前から、公式の出している、「知的財産管理技能検定3級厳選過去問題集」を解くこと中心の勉強をしました。問題をといてみて分からなかったらすぐ解答・解説を読む感じで勉強をすすめました。この公式問題集を2周して、直前期には間違った問題と解説を見直しました。

公式問題集の解説を読んでよく分からないところについては、これも公式の「知的財産管理技能検定3級公式テキスト」と高林龍先生の「標準 著作権法 第5版」等を読んでいました。しかしあくまでも公式問題集中心の勉強をしました。

知財検定3級は「学科」と「実技」の二つのセクションに分かれていますが、社会人経験のある人は実技には取組みやすいと思われます。

また、これは資格試験全般にいえることだと思うのですが、100点を目指して完璧主義になるのではなく、合格点ぎりぎりを合格すればいいくらいの気持ちで勉強をするほうがよいのではと思います。

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1.リーチサイト「映画の無料動画で夢心地」が著作権法違反で立件
新聞報道によると、違法な海賊版映画がアップロードされたサイトに利用者を導く「リーチサイト」の「映画の無料動画で夢心地」について2023年5月8日、京都府警は著作権法違反の疑いで運営者を逮捕したとのことです。同リーチサイトは洋画、邦画やアニメなど約2万1800作品へのリンクを貼る、日本国内で運営されているものとして最大級のものであったそうです。

・違法アップロード映画に誘導 リーチサイト運営の疑い、京都府警逮捕|朝日新聞

2.海賊版サイト「漫画村」の問題とリーチサイト
このブログでもたびたび取り上げてきたとおり、漫画を中心に違法コピーしたコンテンツを掲載し、無料で閲覧可能にしたいわゆる「海賊版サイト」の「漫画村」などが2017年頃より大きな社会問題となりました。この海賊版サイト対策として政府は「サイト・ブロッキング」や「アクセス警告方式」、「侵害コンテンツのダウンロード違法化」などの検討や立法を行ってきましたが、著作権法改正によるリーチサイトおよびリーチアプリの違法化もその一環です。

3.改正著作権法によるリーチサイト・リーチアプリ対策
2020年の著作権法改正により、侵害著作物等へのリンク情報を集約し、利用者を侵害著作物等に誘導するウェブサイトや、これと同じ機能を有するプログラム・アプリの悪質な提供行為等が著作権を侵害する行為となりました(著作権法113条2項、3項)。

すなわち、「提供行為が違法となるリーチサイト・リーチアプリとは「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」または「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるもの」に限定され(法113条2項1号、2号)、かつリンク先コンテンツが侵害著作物等であることについて故意または過失のある場合に限られる(法113条2項本文)」とされています(高林龍『標準著作権法 第5版』152頁)。

改正著作権法の概要
(2020年改正著作権法の概要(部分) 文化庁「令和2年通常国会 著作権法改正について」より)

・令和2年通常国会 著作権法改正について|文化庁

今回の「映画の無料動画で夢心地」は約2万1800作品へのリンクを貼る非常に大規模なものであったものであるそうで、著作権法113条2項違反の疑いがあるとして立件されたものであると思われます。

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■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密
・ネット上のマンガ海賊版サイト対策としてのアクセス警告方式を考える-通信の秘密



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1.はじめに
新聞社の新聞記事を鉄道会社が社内イントラネットで許諾なく共有していたことが著作権侵害として損害賠償が認められた裁判例(東京地裁令和4.10.6判決)が出されています。新聞記事などを企業等が承諾なく内部で共有することが著作権法上許されるかどうかについては著作権法の教科書には載っている論点ですが、公開されている裁判例は少ないようなので見てみたいと思います。

・東京地裁令和4年10月6日・令和2(ワ)3931・著作権・損害賠償請求事件|裁判所

2.事案の概要
鉄道会社である被告Y(首都圏新都市鉄道株式会社)は、原告X(株式会社中日新聞社)の新聞記事のうちY社に関わるものや沿線に係るもの約130件を承諾なくスキャンして画像データを作成し社内イントラネットに保存し役職員(約500名)が当該画像データを閲覧できるようにしていた。XがYの当該行為は複製権および公衆送信権の侵害であると訴訟を提起したのに対して、裁判所はこれを認め、約190万円の損害賠償の支払いをYに命じた。

本件訴訟の主な争点は、①本件新聞記事は著作物であるといえるか、②Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)、③損害の程度について、であった。(③については本記事では割愛。)

3.判旨
(1)争点①:本件新聞記事は著作物であるといえるか
『(Yは本件記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」にあたると主張するが)、(本件)記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、(本件)記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。』

(2)争点②:Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
(Xの個別規定には「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があり、Yはその規定の適用があると主張している点について)『しかし、株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。』

このように判示し、裁判所はYの複製権および公衆送信権の侵害を認定し、約190万円の損害賠償の支払いを命じた。

3.検討
(1)新聞記事は著作権法上の「著作物」といえるか
著作権法による保護を受けるためには、創作したものが「著作物」である必要性があります。この点、著作権法上の「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されています(著作権法2条1項1号)。

一方、著作権法10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、…著作物に該当しない。」と規定しています。これは思想や感情を創作的に表現したものとはいえないものは著作物に該当しないことを注意的に規定したものです。そのため、新聞記事におけるある人物の死亡や地域の事故・火事等を伝える簡単な記事等(いわゆるベタ記事など)は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当し著作物性が否定されます。しかし一般的な新聞記事や雑誌記事などは著作物であると解されています。

この点、2.(1)でみたように、本判決は新聞記事が「相当量の情報について読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されており表現上の工夫がされている」場合や、「当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせ…表現上の工夫をして記事を作成している」場合には、「当該記事は創作的な表現であり、著格物であると認められる」としている点は妥当であると思われます。

(2)Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
著作権法30条は「個人的に又は家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用すること」(私的使用)を目的とする複製をとくに許容しています。この規定の趣旨は、家庭内における零細な複製を許容することにあるとされています。

法30条の「個人的な」使用とは、職業上の利用でなく、個人が趣味や教養を深めるために使用することを指すとされています。また「家庭内」とは、同一家計で同居している家族に使用させるために複製を許す趣旨であり、「非営利目的」の意味合いを含むと解されています。さらに「これに準ずる限られた範囲内」とは、同好会やサークルなどのように10人あるいは4~5人のグループが想定されており、特定かつ少数により公正される範囲を指すと解されています。

したがって、会社などの企業内における内部的利用のための複製は、一般的にかつ少数により構成された範囲でも複製とはいえず、また、当該複製は営利を目的とするものなので、非営利的目的を前提とする法30条の私的利用のための複製としては許容されないと解されています(辻田芳幸「団体内部の複製(舞台装置設計図事件)」『著作権判例百選 第4版』116頁、東京地裁昭和52年7月22日判決)。

この点、本判決のXの個別規定に「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があることは、著作権法30条を前提としていると思われるところ、本判決が「株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。」と判示していることは妥当であると思われます。

(3)まとめ
このように企業内などで新聞記事や雑誌記事などをコピーをとるなどして複製して利用することは、かりにそれが社内研修などが目的であるとしても営利活動であるとみなされ著作権法30条の私的利用の適用対象外となると思われます。そのため、企業の実務担当者は新聞記事などをコピーなどして利用するにあたっては、新聞社などにあらかじめ許諾をとり、必要に応じて使用料を支払った上で利用することが望まれます。

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■参考文献
・中山信弘『著作権法 第3版』352頁
・辻田芳幸「団体内部の複製」『著作権判例百選 第4版』116頁



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1.はじめに
1月28日深夜頃よりツイッター上などにおいて、三井住友銀行(SMBC)、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が、ソフト開発のプラットフォームであるGitHub上で公開されていたことが発覚して大きく注目されています。

ソースコードの一部をGitHub上で公開した人物は、ツイッター上でのやり取りをみると、SMBCなどの勘定系システムの一部の作成を行ったプログラマのようであり、「転職系サイトに年収査定を試算してもらうために自分がPCに持っていたソースコードをGitHub上で公開した」とのことのようです。

さぶれ氏ツイート
(プログラマのツイートより)

ところでこのプログラマはのんびりした性格の方のようで、ツイッター上でも、”GitHub上にソースコードをアップしたが、デフォルトで公開の設定となっていることは知らなかった。自分は別に商業利用に転用していないので著作権法上は問題ないと思っている。もしSMBCから言われたら対応を考える。”等とかなりのんびりとした認識のようです。

2.ソースコード作成者のプログラマの問題
(1)プログラムの著作物
著作権法10条1項は著作物を例示していますが、その中の9号は、「プログラムの著作物」をあげています。また、定義規定である同法2条の10の2号は、プログラムについて「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と規定しており、この、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたもの」にソースコードは該当します。したがって、極端に短いものなど創作性がないとされる以外のソースコードは、著作権法上保護の対象となる著作物であることは間違いありません。

(2)著作権者は誰か?
つぎに、このプログラマがこのSMBCの勘定系システムの一部のソースコードの作成者であるとしても、一般論としては、当該ソースコードの著作権者はこの作成者であるプログラマではなく、SMBCなど(あるいはこのプログラマの所属するシステム開発会社)である可能性が高いと思われます。著作権法15条にいわゆる法人著作(職務著作)の規定があるからです。プログラムに関しては同法同条2項が問題となります。

(職務上作成する著作物の著作者)
第15条
1 (略)
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

銀行の勘定系システムの開発は、プログラマの思い付きではなく、「法人等の発意」に基づき作成されるのが通常であると思われますし、「職務上作成するプログラム」であると思われます。この「職務上作成する」は、勤務時間中に作成したものだけでなく、自宅等で作成したものも含まれるとされています。「契約、勤務規則その他に別段の定め」がある場合には、ソースコードの著作者はプログラム作成者となりますが、一般的には、別段の定めがない場合が通常ではないかと思われます。

なお、「法人等の業務に従事する者」とは、典型的には法人等と雇用契約にある従業員が当てはまりますが、実質的な指揮監督関係が認められる場合には、委託先、請負先の社員などもこれに含まれるとされています。

ツイッター上のやり取りをみると、このプログラマは、SMBC等の委託先のシステム会社のプログラマのようであり、したがって、一般論としては著作権法15条2項により、SMBCなどのソースコードの著作権者は、プログラマではなくSMBC等ということになりそうです。

(3)著作権のまとめ
そのため、ソースコード作成者のプログラマが、著作権者であるSMBC等の許諾なく、ソースコードを転職系サイトに年収査定の試算をしてもらうためにGitHub上で公開することは、やはり一般論としては、SMBC等の著作権を侵害しているということになりそうです。そのため、SMBC等としては、許諾なくソースコードを公表したプログラマとその所属するシステム会社に対して、損害賠償請求(民法709条、715条)、不当利得返還請求権(民法703条)、差止請求権(著作権法112条、116条)、名誉回復措置請求(著作権法115条)を主張することになります。また、著作権侵害に対しては刑事罰も用意されています(著作権法119条以下)。

(4)営業秘密など
なお、システム開発の委託元と、委託先のシステム開発会社との間においては、通常は、システム開発の業務委託契約書等が締結され、そのなかに秘密保持条項が盛り込まれています。就業規則や雇用契約書等にも秘密保持条項が規定されているのが通常です。

この点、不正競争防止法は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性、の3要件を満たすものを営業秘密としており、営業秘密の社外への持出しや開示は同法違反となる可能性があります(不正競争防止法2条1項4号以下)。

この場合、営業秘密を開示等された法人等は、損害賠償請求(4条)、差止請求(3号)などを主張することができます。また、不正競争防止法違反には刑事罰の規定も用意されています(21条以下)。2014年に発覚したベネッセ個人情報漏洩事件においては、個人情報を持ち出したSEがこの営業秘密の開示等の罪に問われ、裁判所はこれを認める判断を示しています(東京高裁平成29年3月21日判決)。

2.三井住友銀行等の問題
今回の事件では、SMBC、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が公開されたようですが、とくに大手金融機関のSMBCの基幹システムの一部のソースコードが漏洩したことが気になります。

個人情報保護法20条は、事業者に対して「データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の(略)安全管理のために必要かつ適切な措置」(安全管理措置)を講じることを規定し、事業者に従業員等を監督し(同21条)、業務委託をする場合はその委託先への管理・監督を行うこと(同22条)も安全管理措置の一環として要求しています。

これを受けて、金融庁および個人情報保護委員会は、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」および「金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」を策定しています。

このガイドラインおよび実務指針においては、社内規定の整備・社内の監督体制の整備などの組織的安全管理措置、従業員等への教育などの人的安全管理措置、データのアクセス権限の管理・設定や漏洩防止策の実施などの技術的安全管理措置などを金融機関が実施することが求められています。

SMBCはメガバンクですので、一般論としては、システム開発の職員が開発ための社屋や部屋に入る入退室は社員証などでアクセス管理をされていたはずであり、また、自分のPCやスマホなども容易に持ち込み・持ち出しなどができないようになっていたであろうと思われ、そのような技術的安全管理措置がどう突破されてしまったのか疑問が残ります。

ベネッセ個人情報漏洩事件は、委託先のSEが刑事責任を問われただけでなく、ベネッセも安全管理措置に疎漏があったとして、ベネッセ側の民事上の損害賠償責任を認める最高裁判決が出されています(最高裁平成29年9月29日判決)。また、ベネッセに対しては株主代表訴訟も提起されています。

このように、ベネッセ事件に照らしても、情報システムに関する個人情報あるいは営業秘密の流出・漏えいは、企業のコンプライアンスと共にガバナンスの問題でもあります。SMBCはメディアの取材に対して、「セキュリティ上の問題はない」などと回答しているようですが、今回の基幹システム等のソースコードの流出事故は、メガバンク等における重大なインシデントではないかと思われます。SMBC等は、従業員や委託先などの監督に関する安全管理措置の法的義務違反の責任を厳しく問われるのではないかと思われます。

(なお、このようなGitHubやSNSなどによる転職や年収査定をうたう、Findy、LAPRASなどの最近のネット系人材紹介会社は、今回のような流出事故について、何等かの責任を負うのか否かについても、個人的には関心のあるところです。)

■関連するブログ記事
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える









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Ⅰ.はじめに
「漫画村」などの海賊版サイトへの対策のため、現在、文化庁がパブリックコメント(意見公募手続)を実施しています(2019年10月30日まで)。

・侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント|文化庁

私も一般人ながら、少し意見を提出しました。

(以下、①ダウンロード違法化の範囲拡大における要件について、②リーチサイト規制について、③海賊版サイトのブロッキングについて、④アクセス警告方式について、の4点について本パブコメの記述式の提出意見として提出したものです。趣旨・内容は、これまでのブログ記事とだいたい同じです。)

(なお、本パブコメが募集している論点は、①②についてですが、文化庁の検討委員会などの資料をみると、政府は数年内に①②③④をできるのもから随時実施する方針のようであり、つぎのパブコメがあるかも不明であるため、③④も提出しました。)

Ⅱ.提出意見
A.ダウンロード違法化の範囲拡大における要件について

〇著作権法30条1項3号の条文の、「著作権を侵害する自動公衆送信」の後に、「(原作のまま公衆送信されるものに限る。)」との文言を追記すべきである。

〇「著作権者の利益が不当に害される場合」という文言も追加すべきである。

(一般財団法人情報法制研究所「ダウンロード違法化の全著作物への拡大に対する懸念表明と提言」(平成31年2月8日)より)

B.リーチサイト規制について
1.リンクをはる行為の法的性質
ウェブサイトの作成・運営において、ハイパーリンク(リンク)をはる(設定する)行為は、リンク元からそのまますぐにリンク先のウェブサイトに移行し当該ウェブサイトを閲覧できるなど、従来の紙媒体にはない大きな利便性のある機能を有しており、リンクをはる行為は国内外の官民・個人のウェブサイト等において、広く日常的に行われている。

つまり、リンクをはる行為ないし機能は、ウェブサイト等を作成し公表する個人・法人の表現行為に資するものであり、表現の自由(憲法21条1項)の保障の下にある。(また、リンクをはって、ウェブサイト等を作成等する個人・法人が営利・営業を目的として表現行為を行うのであれば、それは表現の自由だけでなく、これも憲法の保障の下にもあることになる(憲法22条、29条)。さらに、ウェブサイト等を閲覧等する個人・法人の側からみれば、これは国民の知る権利に資するものであり、これも表現の自由の保障の下にある。

表現の自由は、個人の自己実現の価値と国民の自己統治の価値の二つの面を有するが、とくに後者はわが国の政治体制である民主主義の土台をなすものであり、この意味で、表現の自由は基本的人権のなかでも極めて重要な基本権である。そのため、表現の自由の一つである、リンクをはる行為への法律等による規制・制約は厳格に検討する必要がある。

2.違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となるのではないか?
(1)リンクをはる行為と名誉棄損など
従来、リンクをはる行為は、裁判例上、著作権法侵害とならないとされてきた(ロケットニュース24事件判決・大阪地裁平成25年6月29日)。 しかし近年、リンクをはる行為による名誉棄損が争われた裁判例においては、リンクをはる行為の違法性を名誉棄損などから認める事案が現れている(2ちゃんねる事件・東京高裁平成24年4月18日判決、プロバイダ責任制限法実務研究会『最新プロバイダ責任制限法判例集』125頁)

そして同様の趣旨の裁判例として、東京地裁平成16年6月18日判決、東京地裁平成27年12月21日判決、東京地裁平成27年1月29日判決などが存在する(プロバイダ責任制限法実務研究会・前掲126頁、また最高裁平成24年7月9日参照)。

これらの裁判例は、リンク先の記事・投稿をリンクをはった記事・投稿が「取り込んだ」「引用した」として、リンク先の投稿内容がリンク元の投稿の一部となり、リンク元がリンク先の違法を承継して取得するといったニュアンスが読み取れる。

また、昨年4月の知財高裁は、ツイッターのリツイート(いわゆる公式リツイート)について、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害を認定する判断を示している(知財高裁平成30年4月25日)。

(2)結論
このように、一般論としてはリンクをはる行為は違法ではないとしても、リンク先のウェブサイトが違法であり、リンクをはった者がそれを認識していた場合は、当該リンクをはる行為は違法と近時の裁判所に判断される可能性が高いと思われる。

違法なリーチサイトに対しては、影響の大きい著作権法改正ではなく、漫画家や出版社などの権利者が損害賠償請求などの訴訟を提起すべきなのではないかと思われる。

3.著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能なのではないか?
著作権法112条は、著作権者などは著作権を侵害する者または侵害するおそれのある者に対して差止めを請求することができると規定している。この差止請求の対象となる者は直接の侵害主体(違法アップロードサイト、海賊版サイトなど)に限られるのか、あるいは幇助者などの間接侵害者をも含むのかについては論点として争いがある。

この点、裁判例は、肯定する裁判例も複数存在している(ヒットワン事件・大阪地裁平成15年2月13日、選撮見撮事件・大阪地裁平成17年10月24日、『エンターテインメント法務Q&A』258頁)。

4.まとめ
以上のように、現行法下においても、①違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となり、②著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能であると考えられる。

そのため、表現の自由や知る権利の制約となるおそれのある影響の大きな著作権法改正に対して、政府・国会は慎重であるべきと考える。

C.海賊版サイトのブロッキングについて
1.海賊版サイトのブロッキングと児童ポルノのブロッキング
今回の海賊版サイトの議論に先行する事例として、インターネット上の児童ポルノのブロッキングがある。この児童ポルノのブロッキングに関する、安心ネットづくり促進協議会は、2010年に「法的問題検討サブワーキング 報告書」を公表しているが、その中で、同協議会は、「マンガ等の違法な海賊版サイトによる著作権侵害とそのブロッキングについても、児童ポルノのブロッキングの考え方が妥当し得るか」という論点を検討し、結論として次のように、これを否定している(同報告書20頁)。

・「法的問題検討サブワーキング 報告書」|安心ネットづくり促進協議会

『【児童ポルノ以外の違法情報についても妥当し得るか】
インターネット上には、児童ポルノのほか、成人のわいせつ画像、著作権侵害情報、誹謗中傷やプライバシー侵害等様々な違法情報が存在する。これら児童ポルノ以外の違法情報についても同様に緊急避難としてブロッキングすることができるかどうかが問題となる。

(略)

著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)や検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならないと考える。』
(安心ネットづくり促進協議会 「法的問題検討サブワーキング報告書」20頁より)

この 「法的問題検討サブワーキング報告書」20頁が述べるように、児童ポルノがインターネット上のアップロードされると、被害者の児童にとって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害が発生するのに対して、マンガ等が海賊版サイトにアップロードされることは、著作権という財産権の現在の危難が認められるにとどまる。

そのため、著作権侵害という財産権侵害にとどまる海賊版サイトについては、ネット上の児童ポルノに対するブロッキングを支えている考え方は応用・援用できないと考えるべきである。

すなわち、人格権の侵害は被害者(児童)において事後的には回復困難な重大な被害を発生させるのに対して、財産権の侵害は、それが金銭で計算できる以上、事後に金銭的に回復できる損害であるからである。

また、著作権侵害に対しては、被害者は加害者側に対して差止請求や損害賠償請求などの法的手段を行使することで、問題を解決することが可能である。少し前まで出版社・漫画家側は、「海賊版サイトの運営者やそのサーバーは海外に存在するのが通常であり、日本の警察・裁判所が対応できない」と主張してきた。しかし、2019年9月24日には「漫画村」の運営者が逮捕されたことを忘れてはならない。

このように各論点を検討すると、海賊版サイト対策としてブロッキングを行うことは法的に違法・不当である。

2.海賊版サイトのブロッキングと緊急避難
ブロッキングは、表現の自由(憲法21条1項)、知る権利(同21条1項)との関係で問題となるが、とくに通信の秘密(同21条2項)との関係で問題となる。つまり、ブロッキングは、プロバイダがあらかじめ用意したブロックするサイトのリストに基づき、利用者・国民がインターネット上でどのようなサイトにアクセスするかすべての挙動を24時間365日監視し、リストに該当するサイトに利用者がアクセスしようとしたら、それを遮断(ブロック)する手法であるからである(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』56頁)。

通信の秘密は、憲法に規定があるだけでなく、プロバイダなどを規制する電気通信事業法も規定を置いている。すなわち、同法4条は通信の秘密の不可侵を定め、同4条違反には罰則があり(同179条・通信の秘密侵害罪)、また、総務省による業務改善命令の規定も置かれている(同29条1項1号)。

ここで、通信の秘密侵害について考えると、ブロッキングは利用者・国民のアクセス先を「知得」し、アクセスを遮断する目的でアクセスのデータを「窃用」しているので、通信の秘密侵害罪の構成要件に該当する。その上で、ブロッキングは違法性阻却事由との関係で、緊急避難(刑法37条1項)に該当するとされている。

緊急避難は、①現在の危険の存在、②補充性(「やむを得ずにした行為」)、③法益均衡、の3要件を満たしてはじめて該当する。

ここで、海賊版サイトのブロッキングを考えると、上でみたように海外にサーバーなどがあったとしても、漫画村の運営者を逮捕することは可能であった。つまり警察・裁判所などは漫画村に対して有効な防御であった。(受益者負担の原則からは、出版社・漫画家等はこれまで以上に海賊版サイトに対して差止請求・損害賠償請求、警察への相談・協力などを国任せでなく自己の問題として行うことが期待される。)すなわち、出版社・漫画家などには問題解決のための有効な法的手段が数多く存在するのであるから、②補充性の要件は満たされていないと考えるべきである。

また、これも上でみたとおり、海賊版サイトで侵害されているのはあくまでも著作権、つまり財産権にすぎないのであるから、これは後日、金銭的に解決可能であるので、①現在の危機の存在、の要件も満たしていない。

さらに、ブロッキングは表現の自由・知る権利や通信の秘密など、人権のなかでもとくに重要な基本的人権と衝突するものである。出版社・漫画家等の著作権上の経済的な損害と、わが国の多数のインターネットを利用する国民の知る権利・表現の自由・通信の秘密という極めて重要な精神的自由(人権)とを比較考量(法益均衡)し、慎重にも慎重な検討が必要であるが、精神的人権が一度破壊されてしまうと民主制の過程で回復が困難であること等を考えると、出版社・漫画家等の経済的人権よりも、多くの国民の精神的人権のほうが重要であると考えられる。

したがって、③法益均衡、の要件も満たされていない。そのため、海賊版のブロッキングという手法は、緊急避難に該当せず、違法性は阻却されない。つまり、海賊版サイトに対するブロッキングには、通信の秘密侵害罪(電気通信事業法4条、179条、憲法21条2項)が成立することになる。

このように、海賊版サイトにブロッキングを行うことは違法であるので、政府・国会(あるいは政府から要請を受けたプロバイダ等)はこれを行うべきではない。

D.アクセス警告方式について
1.アクセス警告方式
通信の秘密は基本的人権ではあるものの無制約ではなく、その規制の適法性は「必要最小限度」の制約であるか否かにより判断される(長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕)。

この点、2018年8月に総務省の検討委員会において、海賊版サイト対策にアクセス警告方式の転用を提案された宍戸常寿教授が、その前提条件の一つとして「静止画ダウンロードが違法化されること」をあげているのは、この必要最小限度の要件をクリアするためであろうと思われる。

宍戸教授は、2018年8月30日付「アクセス警告方式(補足)」において、この静止画ダウンロード違法化がなされないままアクセス警告方式が行われることの問題をつぎのように説明している。

・「アクセス警告方式(補足)」|宍戸常寿教授

「一般的・類型的に見て通常の利用者による許諾を想定できるといえる典型的な状況が利用者本人にとっての不利益を回避する場合であり、利用者に違法行為をさせないという点で明確である。仮に、海賊版サイトの閲覧行為が利用者本人にとって法的に消極的に評価されることを明確化できないのであれば、海賊版サイトの閲覧行為がマルウェア感染等別の形で利用者本人の不利益になるおそれが一般的にあるかどうかによることになる(あるいは、そのようなおそれのある海賊版サイトに警告表示を限定する等の工夫が必要になる)。特段そのような事情がないにもかかわらず警告方式を用いようとすることは、約款による同意が通信の秘密の放棄と評価できないおそれがあるとともに、利用者に対する警告の感銘力も低下し、対策の実効性も低下する点にも注意が必要である。」

このように、アクセス警告方式の提案者ご本人である宍戸教授ですら、静止画ダウンロード違法がなされないままのアクセス警告方式の導入は困難としているのであるから、現段階でのアクセス警告方式の導入は通信の秘密に対する必要最小限度の制約を超えたものであり、法的に無理であるといえる。

また、かりに海賊版サイト対策のためにアクセス警告方式を導入すると、プロバイダ(ISP)はすべてのユーザー・国民のすべてのウェブサイトのアクセス先を24時間365日チェックし続けることになるが、これも「必要最小限度」の度合いを明らかに超えており、通信の秘密の侵害となる。

総務省は、通信の秘密のうちアクセス先・URLなどの通信データ・メタデータを取得しているだけだから通信の秘密侵害にならないと主張するようだが、アクセス先・URLなどの通信データ・メタデータなどの外形的事項も通信の秘密の保障の範囲内であることは、憲法・情報法の判例・通説・実務がこれまで認めてきたところである( 大阪高裁昭和41年2月26日判決、長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕、曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

同時に、電気通信事業法3条は、電気通信事業者による検閲を禁止しているが、ISPによる24時間365日のユーザーのネット上の挙動のモニタリングは、この検閲に抵触しないのかも問題になるであろう。

2.約款論
さらに、宍戸教授および総務省は、「アクセス警告方式は、つぎの3要件を満たせば、通常の利用者であれば許諾すると想定されるので、約款に基づく事前の包括的同意であっても有効である」と主張している。これは民法・商法の分野で議論されてきた、約款という制度を説明するための民法学者のとる意思推定理論にたっているものと思われる。

意思推定理論とは、「約款の開示とその内容に合理性があるならば、契約としての意思の合致を擬制してもよい」という理論である(近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁)。

この点、意思推定理論によると、約款には「合理性」が必要となる。しかし、静止画ダウンロードが違法化されていない現時点においては、海賊版サイトへのアクセスが別に違法でもなんでもないにもかかわらず、ISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけるという「約款」は、あまりにも国民の通信の秘密を侵害しており、当該約款には合理性が無く違法ということになるのではないか。

むしろ海賊版サイト対策のためにISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけることは、ユーザー・国民の法令上の権利を不当に制限する「不当条項」に該当するとして、消費者契約法10条、改正民法548条の2第2項に照らして無効と裁判所等に判断される可能性がある。

3.サイバー攻撃対策のアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることの違和感
最後に、そもそも宍戸教授や総務省などが、サイバー攻撃対策のためのACTIVEのアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることに、強い違和感あるいは法的バランスの悪さを感じる。

ACTIVEのアクセス警告方式も24時間365日すべてのユーザーのすべてのネット上の挙動をモニタリングするという通信の秘密という基本的人権を侵害する制度なのだから、本来は通信傍受法などのように、国会での審議を経て立法手当をした上で行うべきである。

ただし、ACTIVEのアクセス警告方式は、サイバー攻撃から日本の個人・法人・国など社会全体のサイバーセキュリティを守るためという、刑法的にいえば社会的保護法益を守るという趣旨の制度であるがゆえに、かろうじて「アクセス警告方式=民間企業の約款」制度が不問にふされているだけであろうと思われる。

一方、今回問題となっている、海賊版サイトの件は、はっきり言ってしまえば、たかだか出版社と漫画家達の個人的・個社的な財産的法益の侵害が問題となっているに過ぎない。社会全体のサイバーセキュリティの保護という社会的法益に比べれば非常に軽い保護法益である。

そもそもこの財産的な損失は、受益者負担の原則の観点から、出版社などが民事訴訟を海賊版サイトに提起するなどして自助努力、自己責任で何とかすべき筋の話である。国がこうも出版業界のために手取り足取りと様々な政策案を検討してあげているのも、国民からみて何らかの薄ら暗いものを感じさせる。国が出版社・漫画家等という特定の業界の援助にばかり時間・予算・人材を割くことは、公務員および国・行政は「全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項、国家公務員法96条1項等)という国の大原則にすら抵触しているように考えられる。

秤にかけられている対立利益が国民の重要な精神的利益である通信の秘密・プライバシー権であることをも考えると、ACTIVEのアクセス警告方式をそのままマンガ海賊版サイト対策にもってくることは法的に無理筋すぎと考えられる。

4.まとめ
このように、海賊版サイト対策でアクセス警告方式を導入することは違法・不当であると考えられる。政府・国会は海賊版サイト対策でアクセス警告方式を導入することを止めるべきである。


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