なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:著作権法

文化庁が、2月12日まで「AIと著作権に関する考え方について(素案)」についてパブコメを実施していたので、つぎのとおり意見を書いて提出しました。

・文化庁パブコメ「「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について」|e-Gov

1.「2.(2)AIと著作権の関係に関する従来の整理」(7頁)について
「イ 法30条の4の対象となる利用行為」「ウ 「享受」の意義及び享受目的の併存」の部分については、本考え方において非常に重要な部分であると思われるので、2017年の文化審議会著作権分科会報告書38頁以下の説明や同40頁の図なども盛り込んで、どうして法30条の4が権利制限規定として許容されるのか、一般人にさらに分かりやすい説明とすべきではないか。(松尾剛行『ChatGPTと法律実務』83頁以下参照。)

報告書40頁の図
(平成29年の文化審議会著作権分科会報告書40頁の図)

2.クリエイター等の「声」(13頁③)について
最近の生成AIの発展に伴って、声優・俳優・歌手等の声を再現できるAIボイスチェンジャーなど生まれ、声優・俳優・歌手等の本人の許諾のない「声」データ等の売買がネット上で横行している(2023年6月13日付日本俳優連合「生成系AI技術の活用に関する提言」など参照)。しかし声優・俳優・歌手等の「声」そのものについては著作権法上保護されず、判例・学説上はパブリシティ権(民法709条)または人格権(憲法13条)で保護されると解されているが(ピンク・レディ事件・最高裁平成24年2月2日判決、法曹時報 65(5) 151頁、TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁、荒岡草馬・篠田詩織・藤村明子・成原慧「声の人格権に関する検討」『情報ネットワーク・ローレビュー』22号24頁)、その保護のためには、①氏名・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付し、③氏名・肖像等を商品等の広告として使用すること、等の厳しい要件を満たす必要があり、声優・俳優・歌手等の保護としてハードルが高すぎる。そのため、声優・俳優・歌手等の「声」という人格権(憲法13条)の保護のため、著作権法や不正競争防止法などの法令において、何らかの立法手当が必要なのではないか。

3.「5.(1)ア(ア)平成30年改正の趣旨および(イ)議論の背景」(15頁)について
この部分については、本考え方において非常に重要な部分であると思われるので、2017年の文化審議会著作権分科会報告書38頁以下の説明や同40頁の図なども盛り込んで、どうして法30条の4が権利制限規定として許容されるのか、一般人にさらに分かりやすい説明とすべきではないか。(松尾剛行『ChatGPTと法律実務』83頁以下参照。)

4.「(4)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製すること」(23頁)について
「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」について、学習用データセットだけでなく海賊版等を明示したことは良いことだと思いました。

5.「カ 差止請求として取りうる措置について」(32頁)について
差止請求としてAI利用者やAI開発事業者等に対して著作権者が取りうる各種の措置が詳しく例示されており良いと思いました。Twitterなどネット上ではアマチュアのイラストレーターと思われる人々による反画像生成AI、反著作権法30条の4の意見が非常に高まっておりますが、これらの差止請求が可能なことにより、それらの懸念や不満は一定程度は解消されるのではないでしょうか。

6.「コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について」(34頁)について
訴訟となった場合に、AI利用者が主張・立証のためAI開発事業者等に対して書類の提出等や文書提出命令、文書送付嘱託などを実施できることが詳しく説明されていることは実務的に大変良いと思いました。

7.補償金制度(36頁)について
著作権者への補償金制度が、著作権法上、理論的な説明が困難であるとしても、Twitterなどネット上でクリエイター等の画像生成AIや著作権法30条の4に反対する意見が非常に大きいことから、政策的な観点から何らかの著作権者への補償金制度が必要なのではないかと思われます。

■関連するブログ記事
・声優の「声」は法的に保護されないのか?-生成AI・パブリシティ権(追記あり)
・【備忘録】文化庁の著作権セミナー「AIと著作権」について

人気ブログランキング

PR
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

sports_syougi_taikyoku

1.棋譜は著作物ではないのか?

共同通信(「将棋チャンネルに賠償命令 ユーチューバー、棋譜利用は自由」)が、将棋の棋譜について大阪地裁が1月16日に「棋譜は客観的事実で自由に利用できる」との興味深い判決を出したことを報道しています。

記事によると、『将棋のタイトル戦で棋譜を盤面図に再現した動画を配信した男性ユーチューバーが、日本将棋連盟の出資を受ける「囲碁・将棋チャンネル」の申請で動画が削除されて配信収益が損なわれたとして運営事業者に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は16日、「動画の棋譜は客観的事実で自由に利用できる」と認め、損害賠償を命じた。』とのことです。

興味深いので著作権法からこの判決をみてみたいと思います。

2.著作権法上の著作物

著作権法の対象となる著作物について著作権法はつぎのように定義しています。

著作権法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
このように著作権法の対象となる著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されていますが、今回の大阪地裁判決との関係では、この定義のとくに「表現」の部分が問題となります。

この「表現」については、まず、表現までには至らず内心にアイデアや思想・感情としてとどまっている段階では未だ著作物ではないとされています(表現・アイデア二分論)。著作権法は表現を保護するものだからです(高林龍『標準著作権法 第5版』28頁)。

そして、特定のアイデアや思想・感情、事実それ自体をそのまま叙述したものにすぎないものについては、判例・通説は著作物と認めないとしています。これを保護すると、著作権法で本来保護されないはずの、その背後にある思想・感情・事実などを特定の者に独占させることになってしまうからです。そのため、スポーツやゲームのルールに関する記述、棋譜等も基本的に著作物ではないとされています(岡村久道『著作権法 第4版』42頁)。

3.棋譜

将棋や囲碁等の棋譜に記入された対局者の指し手それ自体は、当該対局の勝敗に向けられた対局者のアイデアそのものなので、対局者による著作権法上の表現物とはいえないと解されています。

一方、競技の解説書や観戦記などは、ありふれた表現でなければ創作的表現といえるが、その保護の対象は創作性のある表現部分にのみ限られるとされています(岡村・前掲43頁)。

4.まとめ

このように著作権法の教科書をみてみると、本大阪地裁判決が判示したとおり、将棋等の棋譜そのものは著作物でなく著作権法の保護の対象外ということになりそうです。しかし一方、棋譜の解説書などにおける、ありふれた表現でない解説などの部分は著作物であるといえるようです。

本事件は将棋のタイトル戦の棋譜を盤面図に再現した動画を男性ユーチューバーが配信したものであるそうですが、棋譜そのものは著作権法上の著作物ではない一方で、この男性ユーチューバーがもし配信で棋譜について解説等を行っていたとしたら、その解説部分は著作権法上の著作物といえるのかもしれません。

このブログ記事が面白かったらシェアやブックマークをお願いします!

■参考文献
・高林龍『標準著作権法 第5版』28頁
・岡村久道『著作権法 第4版』42頁、43頁

■追記(2024年1月30日)
本事件の判決が裁判所サイトに掲載されていました。

・大阪地裁令和6年1月16日判決 令和4(ワ)11394 不正競争行為差止等請求事件|裁判所

傍論ながら「棋譜は客観的事実であり、自由利用の範疇に属する」と述べていることや、「王将戦の棋譜利用ガイドラインは法的拘束力を持たない」と判示していることなど、興味深い判決です。

将棋判決

人気ブログランキング

PR
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

job_seiyuu
1.声優の「声」は現行法下では保護されないのか?
最近の生成AIの発展に伴って、声優の声を再現できるAIボイスチェンジャーなどが販売されているそうです。このような時代の流れを受けて、本年6月には日本俳優連合が著作権法を改正して「声の肖像権」の確立などを国に求める声明を出しています。たしかに人間の「声」そのものは著作権法で保護されていませんが(ただし声優の声の演技は著作隣接権で保護される)、現行法下で声優等の「声」そのものは保護されていないのでしょうか?

日本俳優連合が“生成AI”に提言 「新たな法律の制定を強く望む」 声の肖像権確立など求める|ITmedeiaニュース

2.柿沼太一弁護士のご見解・「ピンク・レディ」事件
この点、「有名声優の「声」を生成AIで量産し、それを商用利用することは可能か?【CEDEC 2023】」GameBusiness.jpによると、本年8月に一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が開催した講演会「CEDEC 2023」において、生成AIや著作権などに詳しい弁護士の柿沼太一先生(STORIA法律事務所)がつぎのように講演したとのことです。

「簡単に言うと、声優さんの声をAIに学習させてモデルを作るところまでは適法です。が、そのモデルから既存の声優さんの声を新たに生成し、ゲームに使うのはパブリシティ権侵害になると思います」
すなわち、同講演会において、パブリシティ権を認めた最高裁判決であるピンク・レディ事件(最高裁平成24年2月2日判決、芸能人ピンク・レディの写真を週刊誌が無断で使用した事件)について、判決の調査官解説(法曹時報 65(5) 151頁、TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁も同旨)は、パブリシティ権で保護される著名人の「肖像等」には「本人の人物認識情報、サイン、署名、、ペンネーム、芸名等を含む」と解説していると柿沼弁護士は指摘しておられます。つまり、声優や俳優などの「声」はパブリシティ権で現行法上も保護されるのです。

3.パブリシティ権
パブリシティ権とは判例で形成された権利です。芸能人やスポーツ選手などの氏名・肖像等の持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利のことをパブリシティ権と呼びます(潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ不法行為法 第3版』219頁)。そしてこのパブリシティ権の保護対象の「肖像等」には声優・俳優等の「声」も含まれるのです。

また、氏名・肖像等を無断で使用する行為がパブリシティ権を侵害するものとして不法行為として違法となるのは、①氏名・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で氏名・肖像等を商品等に付し、③氏名・肖像等を商品等の広告として使用するなど、もっぱら氏名・肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合であると解されています(潮見・前掲219頁、ピンク・レディ事件)。

4.損害賠償請求・差止請求・死者のパブリシティ権
ところでこのパブリシティ権の法的性質については人格権の一つとする考え方と財産権の一つとする考え方に分かれていますが、ピンク・レディ事件において最高裁は人格権的な考え方を採用しています。そのため、声優などはパブリシティ権を根拠に損害賠償請求だけでなく、差止請求もすることができるといえます。一方、人格権ということは、相続などは発生しないので、死亡した声優・俳優についてパブリシティ権は主張できないことになると思われます(『新注釈民法(15)』547頁)。

5.まとめ
このように柿沼弁護士のご見解や、民法などの解説書などによると、現行法下においても声優・俳優などの「声」はパブリシティ権で保護されているといえます。そして3.でみた①~③の要件を満たす場合には、パブリシティ権を侵害された声優等は、侵害の主体に対して損害賠償請求や差止請求を行うことができることになります。そのため、現在すでに存在する声優の声を再現できるAIボイスチェンジャーなども、場合によっては違法となる可能性があります。

■追記(2024年1月6日)
この問題に関連して、声優などの「声」も人格権の一つとして憲法13条により保護されるとのつぎの興味深い論文に接しました。

・荒岡草馬・篠田詩織・藤村明子・成原慧「声の人格権に関する検討」『情報ネットワーク・ローレビュー』22号24頁(2023年)


このブログ記事が面白かったらシェアやブックマークをお願いします!

■参考文献
・法曹時報 65(5) 151頁
・TMI総合法律事務所『著作権の法律相談Ⅱ』312頁
・『新注釈民法(15)』547頁
・潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ不法行為法 第3版』219頁

人気ブログランキング

PR
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

AIと著作権

■追記(2023年6月22日)
6月19日の文化庁の本セミナーがアーカイブで配信されています。
令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」の講演映像及び講演資料を公開しました。

1.はじめに

2023年6月19日午後2時から3時まで、文化庁のYouTubeの著作権セミナー「AIと著作権」が開催されたので受講しました。とても興味深く面白い講義でした。受講して印象に残った点や感想などを少し書いてみたいと思います。(あくまでも個人の感想です。)

2.著作権法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」
まず、文化庁としては、AIの①開発・学習段階と、②生成・利用段階を分けて考えてほしいということをとても強調されていました。

また文化庁は著作権法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」については、情報解析用DBの販売・利用を阻害する場合が具体例として想定されると非常に狭く解して説明している点が印象に残りました。

(そのため、イラストレーターの方々が「自分の権利が不当に侵害されている」と法30条の4の「権利者の権利を不当に害する場合」に該当すると主張しても、ただちにその主張が採用されるかについては厳しそうだと感じました。)


2.類似性と依拠性
つぎに、AI生成物が著作権侵害となるかどうかについては一般の著作権侵害と同様に、①類似性と②依拠性があるかで判断されるが、類似性はAIでない創作物と同じ判断基準によるとなるが、依拠性は現在議論中で難しいとのことでした。講義のなかでは4つの見解が紹介されていました。

ただし、①Image to Imegi(i2i)の場合や、②特定のクリエイターの作品を集中的に学習させた場合は、依拠性が認められる可能性はあるのではないかとのことでした。この点に関しては、イラストレーターの方々にとっては朗報なのではと思いました。


3.利用者側の注意点
さらに、利用者側の注意点としては、①利用行為が著作権の権利制限規制に該当しないか検討する②既存の著作物と類似していないか検討し、もし類似している場合には、(a)利用をさける、(b)著作権者の許諾を得る、(c)大幅な修正を加えるなどの対応をとることが望ましい、との説明がありました。この点は、今後の法的紛争の予防のために重要な指針なのではと思いました。


4.AI生成物が著作物にあたるか
加えて、AI生成物が著作物にあたるかについては、AIが自律的に作成したものは該当しない、しかし人間が思想・感情を創作的に表現するために「道具」として利用した場合には該当するとし、それには「創作的意図」・「創作的寄与」が問題になるとのことでした。このうち創作的意図は簡単だが、創作的寄与の判断は難しく、現在、文化庁も有識者委員会などで検討中とのことでした。


5.その他
なお、文化庁はAIの問題に関連し「海賊版対策情報ポータルサイト」を準備しているのでイラストレーターなどの方々は利用してほしいとのことでした。
・インターネット上の海賊版による著作権侵害対策情報ポータルサイト

また、生成AIに関する説明を追加した文化庁の「著作権テキスト」(令和5年版)は7月に公開予定とのことでした。

YouTubeのセミナー終了後にはアンケートがあったのですが、「アーカイブ動画を希望しますか?」とあったので強く「希望」としました。


6.感想
このように1時間の講義ながら、全体として分かりやすく非常に勉強になりました。また文化庁の現在の考え方がよくわかるセミナーでした。文化庁におかれては、今後もネット媒体のセミナーなどで、生成AIと著作権の問題を取り上げてほしいと思いました。

■関連するブログ記事
・chatGPT等の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」に関して個人情報保護委員会に質問してみた

人気ブログランキング

PR




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

document_paperless_computer
1.はじめに
新聞社の新聞記事を鉄道会社が社内イントラネットで許諾なく共有していたことが著作権侵害として損害賠償が認められた裁判例(東京地裁令和4.10.6判決)が出されています。新聞記事などを企業等が承諾なく内部で共有することが著作権法上許されるかどうかについては著作権法の教科書には載っている論点ですが、公開されている裁判例は少ないようなので見てみたいと思います。

・東京地裁令和4年10月6日・令和2(ワ)3931・著作権・損害賠償請求事件|裁判所

2.事案の概要
鉄道会社である被告Y(首都圏新都市鉄道株式会社)は、原告X(株式会社中日新聞社)の新聞記事のうちY社に関わるものや沿線に係るもの約130件を承諾なくスキャンして画像データを作成し社内イントラネットに保存し役職員(約500名)が当該画像データを閲覧できるようにしていた。XがYの当該行為は複製権および公衆送信権の侵害であると訴訟を提起したのに対して、裁判所はこれを認め、約190万円の損害賠償の支払いをYに命じた。

本件訴訟の主な争点は、①本件新聞記事は著作物であるといえるか、②Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)、③損害の程度について、であった。(③については本記事では割愛。)

3.判旨
(1)争点①:本件新聞記事は著作物であるといえるか
『(Yは本件記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」にあたると主張するが)、(本件)記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、(本件)記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。』

(2)争点②:Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
(Xの個別規定には「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があり、Yはその規定の適用があると主張している点について)『しかし、株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。』

このように判示し、裁判所はYの複製権および公衆送信権の侵害を認定し、約190万円の損害賠償の支払いを命じた。

3.検討
(1)新聞記事は著作権法上の「著作物」といえるか
著作権法による保護を受けるためには、創作したものが「著作物」である必要性があります。この点、著作権法上の「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されています(著作権法2条1項1号)。

一方、著作権法10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、…著作物に該当しない。」と規定しています。これは思想や感情を創作的に表現したものとはいえないものは著作物に該当しないことを注意的に規定したものです。そのため、新聞記事におけるある人物の死亡や地域の事故・火事等を伝える簡単な記事等(いわゆるベタ記事など)は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当し著作物性が否定されます。しかし一般的な新聞記事や雑誌記事などは著作物であると解されています。

この点、2.(1)でみたように、本判決は新聞記事が「相当量の情報について読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されており表現上の工夫がされている」場合や、「当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせ…表現上の工夫をして記事を作成している」場合には、「当該記事は創作的な表現であり、著格物であると認められる」としている点は妥当であると思われます。

(2)Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
著作権法30条は「個人的に又は家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用すること」(私的使用)を目的とする複製をとくに許容しています。この規定の趣旨は、家庭内における零細な複製を許容することにあるとされています。

法30条の「個人的な」使用とは、職業上の利用でなく、個人が趣味や教養を深めるために使用することを指すとされています。また「家庭内」とは、同一家計で同居している家族に使用させるために複製を許す趣旨であり、「非営利目的」の意味合いを含むと解されています。さらに「これに準ずる限られた範囲内」とは、同好会やサークルなどのように10人あるいは4~5人のグループが想定されており、特定かつ少数により公正される範囲を指すと解されています。

したがって、会社などの企業内における内部的利用のための複製は、一般的にかつ少数により構成された範囲でも複製とはいえず、また、当該複製は営利を目的とするものなので、非営利的目的を前提とする法30条の私的利用のための複製としては許容されないと解されています(辻田芳幸「団体内部の複製(舞台装置設計図事件)」『著作権判例百選 第4版』116頁、東京地裁昭和52年7月22日判決)。

この点、本判決のXの個別規定に「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があることは、著作権法30条を前提としていると思われるところ、本判決が「株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。」と判示していることは妥当であると思われます。

(3)まとめ
このように企業内などで新聞記事や雑誌記事などをコピーをとるなどして複製して利用することは、かりにそれが社内研修などが目的であるとしても営利活動であるとみなされ著作権法30条の私的利用の適用対象外となると思われます。そのため、企業の実務担当者は新聞記事などをコピーなどして利用するにあたっては、新聞社などにあらかじめ許諾をとり、必要に応じて使用料を支払った上で利用することが望まれます。

このブログ記事が面白かったらブックマークやシェアをお願いします!

■参考文献
・中山信弘『著作権法 第3版』352頁
・辻田芳幸「団体内部の複製」『著作権判例百選 第4版』116頁



[広告]








このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ