1.「漫画村」が止めにくいとされる理由
漫画の海賊版サイト「漫画村」を出版社が止めることが難しいとされる理由は、主に2つあると思われます。一つは、①「漫画村」自体が著作権違反の漫画の画像を掲載しているのではなく、違法に漫画の画像ファイルを掲載している保存サイトにリンク(ハイパーリンク)を貼っているだけで、いってみればリンク集のようなサイトであること、二つ目は、②「漫画村」サイトが、ウクライナあるいはベトナムなど著作権法のない国のサーバーに設置されていることであると思われます。

2.リンク(ハイパーリンク)の問題
たしかに、リンクに関して、従来の伝統的な考え方は、ウェブサイトに別のサイトのリンク(URL)を貼ることは、リンク先をいわば「参照先」として提示しているにすぎないので、リンクを貼る行為が違法となることはないとする見解が主流でした。リンクは違法であるとする法律も存在しません。

しかし、近年、リンクを貼る行為が場合によっては違法になると判断する裁判例が出されています。

たとえば、掲示板「2ちゃんねる」において、「X(僧侶)のセクハラ」との記事に続き、別のサイトのURL(リンク)が貼られたことについて、Xがプロバイダ責任制限法に基づき発信者情報開示を求めた裁判において、東京高裁は、「本件記事3(=リンク先の記事)はハイパーリンクの設定により、本件各記事に取り込まれている」と判断し、名誉棄損を認定しました。つまり、リンク先が違法である場合、リンクを貼ったリンク元も違法と判断される余地があることになります(東京高裁平成24年4月18日判決・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁)。

また、あるサイトにアップロードされた児童ポルノのURLの一部を英数字からカタカナに換えた文字列を自身のウェブサイトに掲載したことが、児童ポルノ公然陳列罪の正犯に該当するとした判例も出されています(最高裁平成24年7月9日判決)。

このように、近似の裁判例は、リンクを貼る行為について、もしリンク先が違法であった場合、リンク元のサイトもその内容を取り込んで違法性を帯びることがあると考えているように思われます。つまり、「リンクを貼っただけだから合法」とは考えていないのです。

ところで、「漫画村」がリンクにより掲載している海賊版の漫画は、6万2000件以上(2017年8月現在)であるとされています。そして、「漫画村」サイトの訪問者数は、月に1億6000万人を超えている(2018年4月現在)とのことです。

このように、「漫画村」サイトは、漫画の海賊版を保管サイトにアップロードしている者が、6万件以上も複製権侵害(著作権法21条)、翻案権侵害(27条)、公衆送信権侵害(23条)に該当していることは明らかであり、それらの海賊版のアップロードされた保管サイトに対して、「漫画村」サイトは多数の違法が存在する保管サイトであることを知りながら、そのような保管サイトのリンクを複数掲載しているような事案であり、意図的に当該サイトを閲覧する者が違法なコンテンツへ簡単にアクセスできるサイトを構築しており、リンク先の著作権侵害を幇助しているとして、違法性を帯びることになります(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁)。

そのため、「リンクを貼っているだけだから合法」という「漫画村」の抗弁は意味を持たず、「漫画村」に対して、漫画家・出版社などの著作権者は、差止請求(著作権法112条)および損害賠償請求(民法709条)などを主張できることになります。また、著作権法119条1項(著作権等侵害罪)は、著作権等を侵害した者に対して、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」の罰則を規定していますので、著作権者は警察などに対して刑事告訴することができます。

3.「漫画村」サイトが海外のサーバーに設置されているという問題
国外に違法なサイトがあるという今回の事案のような場合は、準拠法がどこの国のものとなるかが問題となりますが、この点は、基本的にベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)および「法の適用に関する通則法」によることになります。

本事案のようにインターネット上の著作権侵害があった場合の準拠法について、学説は考え方が分かれていますが、裁判例にはつぎのようなものがあります。

これは、日本法人がウェブサイト上において、カナダにあるサーバーを介したP2Pファイル交換サービスを提供していたところ著作権侵害が争われた事案ですが、裁判所は、当該サービスに係るサイト、ソフトウェア等が日本語で記述され、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていた事実を重視し、サーバーがカナダにあるとしても、当該サービスに関する稼働等は、当該日本法人が決定できるものであるから、サーバーの所在にかかわらず、著作権侵害行為は実質的に日本国内で行われたものといえるとして、被侵害利益も日本の著作権法に基づくものであるとして、差止請求と日本の民法による損害賠償(709条)を認めた裁判です(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

(なお、福井弁護士の記事などにある、ウクライナなどの東ヨーロッパ諸国の多くや、ベトナムなどのアジア諸国の多くは、文科省文化審議会著作権分科会の資料によると、2007年現在、ベルヌ条約に加盟しています。)

・ベルヌ条約加盟国 保護期間一覧|文科省

4.まとめ
今回の「漫画村」の事案も、6万件の漫画の海賊版のほとんどは日本のもののようであり、かつ、漫画村を閲覧しているユーザーもほとんどが日本国民であるようなので、出版社・漫画業界などの著作権者は、ファイルローグ事件に照らし、日本の著作権法および民法に基づき、「漫画村」に対して差止請求および損害賠償請求の訴訟を提起するとともに、日本の警察などに刑事告訴すべきと思われます。

このように、出版社・漫画家には、「漫画村」に対して差止をはじめとする複数の法的措置を取る手段があり、それが成功する見込みもあるのですから、いきなり政府に法令に基づかないブロッキングをISPに要請するというおかしな行動にでるのではなく、まずは差止および損害賠償を求める裁判を提起し、著作権等侵害罪について刑事告訴を行うべきです。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んで

■参考文献
・中山信弘『著作権法 第2版』597頁、627頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁、569頁
・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁