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タグ:行政指導

西村大臣金融機関
(ABEMAより)
7月8日、国・自治体の要請に従わず酒類の提供などを続けている飲食店などについて、西村康稔大臣らが銀行などの金融機関に対して「国に従うよう金融機関から飲食店に指導することを要請」し、また、酒類販売事業者に対して「国に従わない飲食店と取引停止をするよう要請」したことが、根拠となる法令が不明である上に、まるで暴力団のようなやり方であり、中国あるいは戦前の日本政府のような国家主義・全体主義的なものであると大炎上中です。

■前回の記事
・西村大臣の酒類販売事業者や金融機関に酒類提供を続ける飲食店との取引停止を求める方針を憲法・法律的に考えた

社会からの強い批判を受けて、西村大臣は7月9日には、金融機関に対する要請を撤回しました。しかし、国税庁から酒類販売事業者への要請は、書面による通達で実施されました。

これに対して、7月12日には、酒類卸販売事業者の方々が西村大臣や与党に面会して要請を撤回するよう申し入れを行ったそうです。

西村大臣の金融機関や酒類販売事業者への要請は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)の32条や24条9号などによるものではありますが、前回のブログ記事でみてみたように、特措法の条文は個別・具体的な規定をおいていないので、西村大臣の金融機関・酒類販売事業者への要請は、あくまでも「お願い」レベルのもの、つまり、行政法上の「行政指導」(行政手続法2条6号、32条)であると考えられます。

この国・自治体などの行政庁による行政指導の限界については、行政法(国賠法)上の有名な判例があります。

つまり、事業者などが国・自治体などの行政庁に対して、「もはや行政指導に従うことはできないと真摯かつ明確表明」したときは、原則としてそれ以後の行政指導は国家賠償法上、違法となるというものです(最高裁昭和60年7月16日判決、櫻井敬子・橋本博之『行政法 第6版』139頁)。

今回、酒類卸販売事業者の方々が12日に西村大臣らに飲食店との取引停止の要請を撤回するよう申し入れを行ったのですから、もしその後も西村大臣ら政府が、酒類販売事業者などに対して、国などに従わない飲食店と取引停止をするよう要請する行政指導を行った場合、それは国家賠償法上、違法となり、西村大臣ら国側は酒類販売事業者などに対して損害賠償責任を負うことになります(国賠法1条1項)。

なお、行政手続法は、行政指導は「いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲逸脱してはならない」こと(32条)行政指導はあくまでも相手方の「任意の協力」により実現ものであること(32条)許認可に係わる行政指導は行政庁が「許認可の権限があることを殊更に示して協力を強制してはならない」等と明記しています(34条)。

この点、今回の国税庁からの酒類販売事業者に対する通達による行政指導は、国税庁にはコロナ対策に関する職掌事務の権限はないことから、国税庁の権限を逸脱しており行政手続法上違法ですし、また、国税庁には酒類販売に関する許認可の権限があるところ、その許認可権限をことさらに示して酒類販売事業者に対して協力を強制していることも違法であるといえます。

このように、西村大臣ら政府の酒類販売事業者や金融機関に対する要請は行政手続法からみても二重三重に違法であり、また昭和60年の判例に照らすと、今後も西村大臣らが同様の要請・行政指導を酒類販売事業者などに対して行うと、それは国家賠償法上違法となります。

そもそも今回の西村大臣らの金融機関や酒類販売事業者などへの要請は、法律の根拠が明確でなく、しかも恫喝で民間企業や国民に国に従うよう求めるやり方は、まるで中国や戦前の日本政府・軍部の国家主義・全体主義的なものであり、戦後の現在の自由で民主主義国家である日本の政治体制と相いれないものです。一言でいえば「国家権力の暴走から国民の自由や人権を守る」という近代立憲主義憲法の精神そのものに反しています。

西村大臣や菅首相らは、このような無理筋な民間企業・国民への要請は止めるべきです。また、政府与党はコロナ感染拡大の第5波が日本を襲いつつあるにもかかわらず、コロナワクチンの供給不足などを放置したまま東京オリンピック・パラリンピックの開催を強行しようとしています。

しかし日本は西村大臣や菅首相らが主権者なのではなく、国民が主権者の民主主義国家なのですから、政府与党は主権者たる国民や企業をコロナの感染拡大から守ることに全力を尽くすべきであり、コロナの感染拡大を悪化させる東京オリンピック中止すべきです。

■追記(7月13日19時40分)
新聞報道などによると、7月13日、政府与党は、酒類販売事業者に対する酒類提供飲食店との取引停止要請を撤回することを決定したとのことです。

・酒提供の飲食店への酒販売停止要請 政府が撤回する方針固める|NHK

■関連する記事
・西村大臣の酒類販売事業者や金融機関に酒類提供を続ける飲食店との取引停止を求める方針を憲法・法律的に考えた
・新型コロナ・尾見会長「五輪何のためにやるのか」発言への丸川五輪大臣の「別の地平の言葉」発言を憲法的に考えた
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・ドイツで警察が国民のPC等をマルウェア等で監視するためにIT企業に協力させる法案が準備中-欧州の情報自己決定権と日米の自己情報コントロール権
・コロナの緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた裁判例-大阪地決令2.4.22

















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LINE
4月26日に総務省は、LINEに対する行政指導に関するプレスリリースを公表しました。

・LINE株式会社に対する指導|総務省

このリリースを読むと、委託先のアクセス権の設定に一部不明確な部分があったことや、モニタリングシステムの本人確認が厳格でないこと等の事実を総務省は認定してるのに、「「通信の秘密」侵害は認められなかった」と結論づけているのは、LINEに厳しい行政処分・行政指導を行わないでおこうという、性善説に立った結論ありきで物事が進められたようで疑問です。

リリースの文中には、「LINEからの報告書をみる限りでは」という表現もあるので、総務省はLINE社に対して立入検査すら実施しなかったようです。

また、画像・動画データのすべてが現在もLINE社の韓国の関連会社のサーバーに保存されていることについて、総務省の今回のプレスリリースはまったく触れていません。

「通信の秘密」(憲法21条2項)は、国民のプライバシー(憲法13条)や内心の自由(19条)、表現の自由(21条1項)に関連する重要な人権です。そのため、電気通信事業法は4条で「通信の秘密」を規定し、同179条はその侵害に対する罰則を用意しています。

この「通信の秘密」は、LINEでいえばトークなどのメッセージや画像データ・動画データなどの通信内容が保護対象となるのは当然として、メッセージの相手である友達などの通信の宛先、通信の日時、通信の有無、などの外形的事項も保護対象となるとされている幅広なものです。

LINEなどの電気通信事業者は、「通信の秘密」については、「緊急避難」、「正当業務行為」あるいは利用者の「本人の同意」などがあった場合には、通信の秘密の侵害は例外的に許容されるとされています(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁)。

しかし、LINEの事件では、中国・韓国などに個人データが海外移転していたことについては、問題が発覚し、3月末にLINE社がプライバシーポリシーを改正する前は、プライバシーポリシーに明示されておらず、利用者の「本人の同意」があったとはいえません。

なんらかのアクシデントに対する緊急避難的対応として中国・韓国などに個人データが移転したという事実はないようですし、日本のユーザーのすべての画像データ・動画データを韓国に移転していたことが正当業務行為といえるのかも大いに疑問です(しかも画像データ・動画データには、個人の医療データ、金融データなどセンシティブ情報も含まれています。)。しかし、これらの論点についてLINE社からの説明はなく、今回の総務省のプレスリリースもこれらの問題に関してはまったく触れていません。

LINEの日本の利用者は8600万人を超えるそうで、個人だけでなく、国・自治体や大企業もさまざまな場面で利用を行っています。個人のプライバシーに関する情報とともに、企業の営業秘密・機微情報や、国などの安全保障にかかわる情報(例えば国の要人のスケジュールや移動・位置情報に関する情報等)もやり取りされている可能性があります。

総務省がLINE社に対して立入検査すら実施せずに、提出された報告書だけで性善説的な観点で行政指導を行い、事件を終わりにしようとしている点には、「通信の秘密」や個人情報保護法上の問題、情報セキュリティ上の問題だけでなく、国の安全保障の観点からも疑問を感じます。

■関連するブログ記事
・LINEの個人情報の問題に対して個人情報保護委員会が行政指導を実施
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁















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