
1.LINEが「子の有無・学歴・職業」等のプロファイリング情報をターゲティング広告に利用していた問題
2026年5月28日、ITmedia NEWSは、LINEアプリの広告機能において、ユーザーの子どもの有無・最終学歴・職業等といった機微な個人情報がターゲティング広告に利用されていることが発覚し、SNS上で炎上したと報じました(「子の有無や学歴、年収まで……LINEの広告設定が「怖い」と物議 LINEヤフーに意図を聞いた」ITmedia NEWS)。
私も自分のLINEの属性情報の画面を確認しましたが、設定が「オン」になっているとともに、それぞれの属性情報はほとんどが当たっていました。

特に問題とされたのは、当該設定がデフォルトで「オン」になっていた点です。多くのユーザーは自覚のないまま、LINE上あるいはウェブサイト上などの行動履歴、購入履歴、登録情報(年齢・性別・地域等)を組み合わせた形でターゲティング広告に自己の情報を活用されていたことになります。SNS上では「知らないうちにオンになっていた」「友人とのトークを見られているのでは」などの不安の声が多数寄せられたとのことです。
LINEヤフー社は「トークの内容は広告に使っていない」と説明し、2025年8月より設定画面を改善してオプトアウトを可能にしたとしていますが、それ以前の長期間にわたりユーザーへの十分な告知なくこうした取扱いが行われていたことは事実のようです。
2.LINEヤフーの日本生命への「結婚予兆セグメント」販売ビジネス
筆者は2025年1月、LINEヤフー社が保有するユーザーの個人データをプロファイリングし、「結婚予兆セグメント」「転職活動の検討セグメント」といった分類結果を日本生命等のパートナー企業に第三者提供(販売)していることを紹介しました。(なか2656のblog「LINEヤフーが「LINE公式アカウント」の企業に「結婚予兆」等のプロファイリング結果を第三者提供していることを個情法から考えた-プロファイリング結果の第三者提供」2025年1月19日)
日本生命はこのプロファイリング結果を活用し、同社のLINE公式アカウントの「友達」ユーザーのうち、「結婚予兆セグメント」に分類された層に保険を提案したところ、保険契約の成約率がLINEを使わない提案手法に比べ10倍以上になったと報告されたとのことです。また、日本生命は「転職活動の検討セグメント」データも採用活動に利用しており、第一生命・T&Dグループも同様の手法を活用しているとされています。
LINEヤフー社は、同社のプライバシーポリシー上「統計情報」としてパートナー企業への提供を説明しており、現行の個人情報保護法上は一応法的な条件をクリアしていると考えられます。しかし、ユーザー識別符号とセットで提供されている以上、実態は個人データの提供と評価される余地があり、また「結婚予兆」「転職検討」といった情報はLINEヤフー社自身が「機微な属性の推定・分類は行わない」と宣言していることとの矛盾も残ります。
※なお、NTTドコモなども、同様にプロファイリング情報の販売ビジネスを行っているとのことです(ドコモ、1億規模の会員データをプロファイルして広告主に提供へ 「引っ越しそうな人」「EVに興味ある人」など的確に|ITmedia NEWS)。
3.現行個人情報保護法の問題点―プロファイリング規制の欠如
EUのGDPR22条等がプロファイリングについて明確な法規制を設けているのに対し、日本の個人情報保護法はプロファイリング行為そのものを正面から規制していません。
個情法17条1項の「利用目的の特定」義務や同ガイドラインの規定により、事業者はプロファイリングを行う旨をプライバシーポリシー等に記載することが求められるが、実際には包括的なプライバシーポリシーへの同意取得で処理されており、一般ユーザーが自己の情報がどのように分析・販売されているかを正確に把握できているとは言い難い状況です。
また、個情法19条は個人情報の不適正を禁止していますが、同法の条文はあいまいであり、個情法ガイドライン(通則編)の規定や具体例も限定的であり、その実効性が問題となります。
さらに、福岡真之介ほか『AIプロファイリングの法律問題』が指摘するように、プロファイリング結果の第三者提供は、①本人がその内容を把握できないリスク、②提供先での利用目的が予測できないリスク、③プライバシー権侵害のリスク(民法709条・憲法13条)をはらんでおり、通常の個人データの第三者提供とは別次元で論じる必要があります。
こうしたプロファイリングに関する問題意識は個人情報保護委員会の法改正の検討会議などでも議論されたはずですが、2026年法改正ではプロファイリング規制は見送られました。
4.2026年個人情報保護法改正-「AI学習目的」での本人同意不要化
現在、国会で審議中の2026年個人情報保護法改正法案は、「適正なデータ利活用の推進」を掲げ、「個人データ等の第三者提供及び公開されている要配慮個人情報の取得・第三者提供について、統計情報等の作成(統計作成等であると整理できるAI開発等を含む)にのみ利用される場合は本人同意を不要とする」趣旨の改正が盛り込まれています。
注目すべきは「統計作成等であると整理できるAI開発等を含む」という点です。民間企業が行うAI開発・機械学習が広く対象になるとされています。つまり、要配慮個人情報であっても、「AI学習目的」であれば本人同意なしに取得や第三者提供が可能となります。
5.「AI学習目的」という抜け穴―法改正の深刻な問題点
この改正が現実のビジネスに与える影響を、前述のLINEヤフーと日本生命の事例に即して考えてみると、以下のようなスキームが法的に合法として成立することになります。

改正法は上述の「要配慮個人情報の取得・第三者提供について、統計情報等の作成にのみ利用される場合は本人同意を不要とする」改正について、「統計情報等の作成にのみ利用される場合」という限定を付しており、AI学習目的で取得したデータを直接営業に転用することは禁止されるべきではないでしょうか。しかしそのように考えるには問題があります。
最大の問題は、個人情報保護法上、「学習済みAIモデル」は原則、個人情報でないので法の規制対象ではないとされている点です(個情法ガイドラインQA1-8)。

すなわち、事業者は、個人データそのものは「AI学習」にしか使っていないと整理しつつ、学習済みモデルはその後個情法に縛られずに自由に利用できるのです。学習済みモデルをマーケティングや営業ターゲティングに使うことは、現行個情法上も改正法上も個情法の規制が直接及ばない領域なのです。
一般ユーザーから見れば、普通にLINEを利用して妊娠・出産等の情報がLINEに収集され、本人同意なくAI学習目的で日本生命に提供され、日本生命がそのAIをもとに個人に保険営業を行うという一連の流れが、改正個情法の下でより合法的に成立しうることになります。しかしこれは、要配慮個人情報の保護を事実上形骸化させるものと言わざるを得ないのではないでしょうか。
※なお、LINEの事例にある「子どもの有無」「結婚予兆」などは、個情法上の要配慮個人情報(病歴、思想信条、犯罪歴など)には厳密には該当しませんが、しかし個人のプライバシーの核心に直結する非常に機微な情報です。個情法の法改正の議論がこのまま進めば、こうした機微な情報のAIによる利活用がさらに肯定されかねないという点で、問題の本質は地続きです。
6.まとめ
今回の2026年個情法改正は、AI推進・データ利活用という経済政策的要請を優先するあまり、要配慮個人情報の保護を実質的に後退させるリスクを内包しています。個人情報保護委員会は、個情法施行令・施行規則やガイドライン等において、少なくとも以下の点を明確にすべきではないでしょうか。
●「AI学習目的で取得したデータから生成したモデルを営業・マーケティング・スコアリング目的等に転用することは不適正利用(個情法19条)に当たる」旨を個情法ガイドライン・同QA等に明記し、歯止めをかける。LINEのような国民的インフラを活用した大規模プロファイリング情報販売ビジネスは、今後AIの普及とともにさらに高度化・拡大していくことが予想されます。個人の権利利益の保護や人格尊重(個情法1条、3条、憲法13条)という法の基本理念が形骸化しないよう、国会・行政レベルでの対応が求められるものと思われます。
●「統計情報等の作成にのみ利用」の要件を形式的・技術的な解釈で潜脱できないよう、利用目的・利用態様の実態に即した厳格な運用基準を設ける。
●中長期的にはEUのGDPRやAI法のように、日本の個情法もプロファイリング規制を設け、AIによる自動意思決定を法律レベルで規制する制度の導入を検討する。
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・「LINEヤフーが「LINE公式アカウント」の企業に「結婚予兆」等のプロファイリング結果を第三者提供していることを個情法から考えた-プロファイリング結果の第三者提供」なか2656のblog
・あなたの人事異動をAIが決める日—富士通のAI人事システムと日本の法的空白|なか2656のblog
■参考文献
「子の有無や学歴、年収まで……LINEの広告設定が「怖い」と物議 LINEヤフーに意図を聞いた」ITmedia NEWS
・保険の成約率10倍以上に…日本生命、顧客開拓にLINE活用|ニュースイッチ
・ドコモ、1億規模の会員データをプロファイルして広告主に提供へ 「引っ越しそうな人」「EVに興味ある人」など的確に|ITmedia NEWS
・個情法改正へ 本人同意なしの統計作成とAI開発、リスク検討十分か|朝日新聞
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』208頁
・福岡真之介・杉浦健二・田中浩之・坂田晃祐ほか『AIプロファイリングの法律問題』42頁、353頁

