なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:PPC

bouhan_camera
1.防犯カメラ・顔識別機能付きカメラシステムに関する個人情報保護法ガイドラインQAの一部改正
個人情報保護委員会(PPC)は、本年3月30日に有識者委員会報告書「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」を公表したこと等を踏まえて、5月25日に個人情報保護法ガイドラインQ&Aについて、防犯カメラや顔識別機能付きカメラシステムに関して一部改正等を行ったことをウェブサイトで公表しています。このブログ記事ではこの一部改正を見てみたいと思います。

・令和5年5月25日 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&Aの更新」(PDF)

2.従来型防犯カメラ(QA1-13)
01
02
改正個人情報保護法ガイドラインQ&A(以下「QA」)は、防犯カメラを「従来型防犯カメラ」(QA1-13等)と「顔識別機能付きカメラシステム」(QA1-14等)の2つに分けて解説しています。

顔識別機能付きカメラシステムとは、「顔識別機能付きカメラシステムは、検知対象者の顔画像12 及び顔特徴データをあらかじめ照合用データベースに登録しておき、カメラにより取得した画像から抽出した被撮影者の顔特徴データと照合し、被撮影者がデータベースに登録された者と同一人物である可能性が高いと検知した場合にアラート通知等がなされるシステムである。 」と解説されています(PPC「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(令和5年3月)」8頁)。

そしてPPCは従来型防犯カメラについて「防犯目的で設置されているカメラのうち、撮影した画像から顔特徴データの抽出を行わないもの」と定義しています(QA1-13)。この顔識別機能付きカメラシステムについて大きく取り上げたことが、今回のQAの改正の大きな目玉であるといえます。

QA1-13は、従来型の防犯カメラについて個人情報保護法上の留意点を解説しています。すなわち、従来型防犯カメラの設置状況などから個人情報の「取得の状況からみて利用目的が明らか」な場合には個人情報保護法21条4項4号により国民個人への利用目的の通知・公表は不要とする一方で、「偽りその他不正の手段」による個人情報の取得を禁止する法20条1項との関係で、「カメラの設置状況等から、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能といえない場合には、容易に認識可能とするための措置を講じなければなりません」として、「例えば、防犯カメラが作動中であることを店舗や駅・空港等の入口や、カメラの設置場所等に掲示する等の措置を講じることが考えられます。」としています。

さらに、「「カメラの設置状況等から、カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能」な場合であっても、同様の措置をとることが望ましいとしています。

3.顔識別機能付きカメラシステムによる防犯カメラ(QA1-14)
05
06

QA1-14は顔識別機能付きカメラシステムによる防犯カメラについて解説しています。この点、顔識別機能付きカメラシステムは顔画像だけでなく顔識別データを取得していることが「取得の状況からみて利用目的が明らか」な場合には該当しないので(法21条4項4号)、事業者は「従来型防犯カメラの場合と異なり、犯罪防止目的であることだけではなく、顔識別機能を用いていることも明らかに」しなければならないと明記されていることは非常に重要であると思われます。またQA1-14は、事業者は顔識別機能付きカメラシステムを設置する場合は、保有個人データに関する事項の公表等(法32条)などの義務も果たさなくてはならないとしています。その上で法20条1項(不正な個人情報の取得の禁止)に関する部分はQA1-13を参照のこととしています。

さらにQA1-14は、本人へ分かりやすく情報提供を行うために、①顔識別機能付きカメラシステムの運用主体、②同システムで取り扱われる個人情報の利用目的、③問い合わせ先、④さらに詳細な情報、を掲載したサイトのURLまたはQRコード等を店舗や駅・空港等の入り口やカメラの設置場所に掲示することが望ましいとしています。この点に関しては上述の有識者検討会報告書33頁以下に詳しい解説があります。(ただ、この部分に関しては、書面等に上の事項を列挙して掲示するのではなく、サイトのURLやQRコードなどの掲示としてしまうことは、本人への分かりやすさとして大丈夫なのかと個人的に疑問です。)

03

04
(PPC有識者委員会報告書「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」35頁、36頁より)

加えて、QA1-14は、顔識別機能付きカメラシステムによる防犯カメラを設置・運用するにあたっては、同システムの濫用を防止するために、事業者は「登録基準」や運用の「文書化された統一的な基準」を制定し、それらを運用するための組織内の「体制を整備」しなくてはならないと明記していることも非常に重要であると思われます。

4.カメラ画像・顔特徴データの共同利用
07
08

QA7-50は、顔識別機能付きカメラシステムの防犯カメラによるカメラ画像・顔特徴データの共同利用について解説していますが、「組織的な窃盗の防止」などを例に挙げて、「全国的」な共同利用も「利用目的に照らして真に必要」な場合には許容されると記述したことが大きな改正点であろうと思われます。(有識者検討会の会議では、全国レベルでの共同利用を行う場合には「事業者に事前にPPCに相談させるべきである」趣旨の議論も行われていたのですが、報告書の段階ではカットされたようです。)

この点に関してはこのブログでも取り上げてきた通り、個人情報保護法に関する教科書は、共同利用の最大限度・外延は県などの一つの地域や一つの業界と解説するものが一般的であると思われ(宇賀克也『新・個情法の逐条解説』275頁、園部逸夫・藤原静雄『個情法の解説 第二次改訂版』187頁など)、このQA7-50の改正は大きく踏み込んだものであるといえます。

このQA7-50も指摘するとおり、事業者あるいは事業団体等は、かりに全国レベルで顔識別機能付きカメラシステムの防犯カメラによるカメラ画像・顔特徴データの共同利用を行うとしても、利用目的の達成に必要な最低限度の慎重な運用が必要であると思われます。

この点、QA7-50においてPPCは、QA1-14の登録基準などに加えて、事業者・事業団体に「共同利用する全ての者が同様の取扱いを行うための統一的な運用基準(登録基準や保存期間等)を作成すること」等を求めています。

5.顔識別機能付きカメラシステムのカメラ画像や顔特徴データ等は個人情報データベース等に該当しないのか?(QA1-41)
09

QA1-41は「防犯カメラ等で収集されたカメラ画像等は個人情報データベース等に該当しますか?」というQに対して、「個人情報に該当し得るが、特定の個人を検索できない状態であれば「体系的に構成」されたと言えないので、個人情報データベース等には該当しない」とのみ解説してしまっています。しかしこれはやや説明が足りないのではないでしょうか。

すなわち仮に個人情報データベース等に該当しない場合には、当該データベースに含まれるデータは保有個人データではなく、事業者は本人からの開示・利用停止等の請求に応じる必要がなくなってしまいます。

この点、従来型防犯カメラで収集されたカメラ画像などは個人情報データベース等に該当しないとしても、顔識別機能付きカメラシステムで収集されたカメラ画像や顔特徴データは個人情報データベース等(および保有個人データ)に該当すると思われます。

すなわち、PPCの有識者委員会報告書「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」30頁以下には顔識別機能付きカメラシステムの仕組み等が解説されていますが、同システムの照合用データベースは、例えば①ID、②顔画像、③顔特徴データ、④発生日時、⑤犯行の状況(ドアをこじ開け立入禁止地区に侵入など)、⑥犯人の特徴(男性/40代/スーツ姿など)などの情報で構成されていると解説されています。

照合用データベースの図
(PPCの有識者委員会報告書「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」31頁より)

つまり、日時などだけでなく、顔写真、犯行の状況、犯人の特徴などさまざまな項目から照合用データベースは検索可能なのですから、これは「体系的に構成」されており、照合用データベースつまり顔識別機能付きカメラシステムは個人情報データベース等に該当します。したがってそれを運用している事業者は、本人からの開示等の請求に応じる法的義務があります(法33条以下)。

6.開示・利用停止等の開示請求
10

QA9-13は、防犯カメラに関する保有個人データの開示について説明しています。すなわち「顔識別機能付きカメラシステム等に登録された顔特徴データ等が保有個人データに該当する場合、法令に基づき開示請求等に適切に対応しなければなりません。」と解説しています。

しかしその次の1行は、「すなわち、開示請求がなされた場合には、保有個人データの開示義務の例外事由に該当しない限り、開示請求に適切に対応しなければなりません。」と説明しています。

この点、防犯カメラに関するいわゆるブラックリストについては、個人情報保護法施行令5条1号などの「本人又は第三者の生命、身体または財産に危害がおよぶおそれがあるもの」に該当し、保有個人データの開示義務の除外事由に該当する可能性があります。

施行令5条
(PPCのパブコメ「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」より)

ここについてはPPCの有識者委員会報告書「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」のパブコメでも多くの見直しを求める意見が寄せられていました。これらの意見に対してPPCはパブコメ結果において、「施行令第5条の該当性は個別の事案に応じて慎重に判断されるべきものであり、防犯目的であれば直ちに施行令第5条に該当するということを述べるものではありません。」等と回答しています(パブコメ結果45など)

そのため、事業者は誤登録の被害者などから開示等の請求があった場合には、例外事由に該当するからと一律に請求への対応を拒否するのではなく、開示等の請求に誠実に対応する姿勢が求められます。(PPCはこのパブコメ結果45の回答の趣旨をQA1-13にも盛り込むべきだったのではないでしょうか。疑問が残ります。)

なお、PPCは今回のQA改正において、誤登録されてしまった本人が読んで分かりやすい開示・利用停止等の請求のやり方をもQAに載せるべきだったのではないでしょうか(例えば、誤登録していると思われる小売店や警備会社のウェブサイトに掲載されているプライバシーポリシーの開示等の請求手続きに従って書面で請求を行う等)。

このブログ記事が面白かったらシェアやブックマークをお願いします!

■関連するブログ記事
・個人情報保護委員会の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(案)」に関するパブコメ結果を読んでみた
・JR東日本が防犯カメラ・顔認証技術により駅構内等の出所者や不審者等を監視することを個人情報保護法などから考えた(追記あり)
・防犯カメラ・顔認証システムと改正個人情報保護法/日置巴美弁護士の論文を読んで

人気ブログランキング

PR




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

tatemono_kaigo_shisetsu
1.老人ホームなどで施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けることは許されない?
5月20日付でYahoo!ニュースに、「「誕生日おめでとうございます」は禁止? 過剰な「高齢者の個人情報保護」がもたらすデメリット|オトナンサー」という興味深い記事が掲載されていました。この記事によると、個人情報保護法を遵守する目的で、施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けるのを禁じている高齢者住宅や高齢者施設があるとのことです。これはいわゆる「個人情報保護法の過剰反応」と呼ばれる問題ですが、これはなかなかまずい問題だなと思いました。

2.個人情報保護委員会・厚労省の個人情報保護法ガイドラインQA
この点、例えば個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドラインQA1-35を見ると、「Q1-35 障害福祉サービス事業者等において個人情報を取り扱う際に、留意すべきことはありますか。 」というQに対して、「施設利用者の特性に応じて、個人情報の取扱いについて分かりやすい説明を行うことが望ましい」等の趣旨のAが解説されているだけで、別に福祉施設等に対して一律に利用者本人の氏名・生年月日などを声にだすことを禁止する等のことは記載されていません。

QA1-35
(PPCの個人情報保護法ガイドラインQA1-35より)

あるいは個人情報保護委員会・厚労省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 に関するQ&A(事例集)」の各論3-10は、「外来患者を氏名で呼び出したり、病室における入院患者の氏名を掲示したりする場合の留意点は何ですか。(後略)」というQに対して、「患者から、他の患者に聞こえるような氏名による呼び出しをやめて欲しい旨の要望があった場合には、医療機関は、誠実に対応する必要がある」とのAを解説していますが、一律に氏名で呼び出すことは禁止などとはしていません。

3-10
(医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスQA各論3-10より)

このように個人情報保護委員会や厚労省のQAを見てみると、やはり冒頭の記事にあった、施設職員が入居者に「誕生日おめでとうございます」と声を掛けるのを禁じている高齢者住宅や高齢者施設があるということは過剰な対応であり、望ましくないと思われます。

3.個人情報保護法の立法目的
なお、個人情報保護法の立法目的については日本の多数説的な見解は自己情報コントロール権としますが、その伝統的な見解は、その立法目的の核心部分は個人の思想・信条や内心などが保護されるべきものであると考えています。この考え方からは老人ホームなどの福祉施設や医療機関などで誕生日や氏名などを呼ぶことは一律禁止にすることは「個人情報保護法の過剰反応」であり的外れであると思われます。

あるいは、産業技術総合研究所主任研究員の高木浩光先生などは近年、個人情報保護法の立法目的はAIやコンピュータの「個人データによる人間の選別」の防止であるとの見解(つまり個人情報保護法が真に保護しようとしているのは「個人」であって、「氏名・住所・生年月日」などの個人情報ではない)を主張されておられますが、この見解にたてば、福祉施設や医療機関などで利用者本人の氏名や誕生日などを声に出すことを一律に禁止することなどは、これも完全に的外れになると思われます。

このブログ記事が面白かったらシェアやブックマークをお願いします!



PR




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

bouhan_camera
2022年にはいってから、個人情報保護委員会(PPC)で「防犯予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」が開催されています。そこで、PPCサイトで公表されている同検討会の資料を読み、気がついたところを簡単にまとめてみました。

・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第1回)
・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第2回)
・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第3回)

Ⅰ.資料2「顔識別機能付き防犯カメラの利用に関する法的整理と検討課題」について
1.2頁の3.カメラ画像の提供の(3)共同利用について
(1)防犯カメラの個人データが際限なくどんどん広範囲に共同利用されてしまうおそれへの歯止めが必要ではないか。学者の先生方の教科書をみると、共同利用の限界は「書店業界」など「〇〇業界」のなかが限界(外延)であるように読めるが(園部逸夫・藤原静雄『個人情報保護法の解説 第二次改訂版』187頁)、もし防犯カメラの個人データが「日本の小売業全体」で共同利用されてしまったら、それは範囲が広すぎではないか。立法などで歯止めをかけるべきではないか。

(2)また第三者提供の例外である委託、事業承継、共同利用のなかで、共同利用は一番抽象的で事業者にいかようにも利用されてしまうリスクが高い。(例、TポイントのCCCの個人データの管理が当初、共同利用とされていたことなど)この点は、今後の個人情報保護法の改正などで明確化を図るべきではないか。

2.2頁の開示等請求について
(1)いわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」の方々がスーパーや警備会社などに開示等請求をしても、一番多い対象は「うちはそういうことはやってない」「そういうデータは保存していない」と対応を断られることである。この場合、個人情報保護法上は開示等請求の民事訴訟を提起するしか対応方法がないが、これは一般市民にはハードルが高すぎる。例えば個人情報保護委員会(PPC)への相談、申告などの手続きを経て、PPCから事業者に対して助言・指導を行わせるなど、PPCが関与して紛争解決をするための手続きがあったほうがよいのではないか。

3.3頁の(1)利用目的の特定について
(1)PPCの個人情報保護法QA1-12は、ただの防犯カメラは個人情報保護法21条4項4号との関係で事業者は「防犯カメラ作動中」との掲示・表示さえすればよしとされているが、顔識別機能付き防犯カメラの場合は「防犯のために顔識別技術を用いた顔識別データの取扱が行われていること」を示す掲示・表示が必要としているが、現状ではほとんどの事業者が後者を遵守していない。遵守させるために、ガイドラインやQAだけでなく立法が必要なのではないか。

4.12頁のカメラ画像の提供の(3)共同利用、個人情報保護法ガイドラインQA7-50について
(1)共同利用する個人データは「真に必要な範囲に限定」、「データベースへの登録条件を整備」とあるが、特にいわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」の人々が被る権利利益の侵害、個人の尊重と基本的人権(プライバシー権など)の侵害は重大であるため、この部分を事業者や認定個人情報保護団体のブラックボックスとさせないように、登録条件・基準や保存期間、開示等請求の手続き、問合せ窓口などを事業者に制定させ公開させ遵守を義務付けるための立法が必要なのではないか。ガイドラインやQAなどでは足りないのではないか。個人情報保護法は事業者による個人情報の利用と国民の権利利益の保護や人権保障のバランスをとる法律であることを考えると、PPCは国民の個人の尊重と基本的人権を守るための行政活動や立法活動がより必要なのではないか(個人情報保護法1条、3条)。

5.13頁の開示等請求の施行令5条各号について
(1)一般論としては、事業者側の対犯罪対応、反社対策、警察などの対テロ対応、安全保障対策のためにこのような除外規定があることは理解できるが、しかしいわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」のように間違ってデータベースに登録された人々の権利救済のためには、施行令5条にも、本人が異議申し立てをできる場合を明記するような方向で、個人情報保護法を改正すべきではないか。施行令5条が事業者の免罪符になっている現状は問題である。(例えば施行令5条に該当する場合でも、冤罪被害のおそれが高い場合には、PPCや裁判所の関与のもとにインカメラ手続きなどを利用して本人の権利救済を図るなど。)

個人情報保護法施行令5条
(個人情報保護法施行令5条。PPCの資料2より)

6.企業の特定分野を対象とする団体を認定する認定個人情報保護団体の創設について
(1)この法改正により、あまりにも広い範囲で個人データの共同利用がなされてしまった場合、本人の合理的な予測ができず、本人の権利利益の侵害となってしまうのではないか。(例えば業界をまたぐ個人データの共同利用などは認めるべきではないのでは。)認定個人情報保護団体や事業者の利便性とは別に、本人・国民の側の権利利益の保護も図られるべきではないか。

7.17頁の事業者の自主的な取り組みについて
(1)これらの事業者の自主的な取り組みを事業者に実施させるために、自主的な取り組みの制定・公表を事業者や認定個人情報保護団体に義務付け、遵守させるために、枠組み立法が必要なのではないか。

Ⅱ.資料3「顔識別機能付き防犯カメラの利用に関する国内外動向」について
(1)EUのGDPR22条だけでなく、同22条のプロファイリング拒否権やAI規制法案も検討すべきではないか。また、GDPR22条については、日本の2000年の旧労働省の「労働者の個人情報保護のための行動指針」第2第6(6)もプロファイリング拒否権を明記していたことをもっと注目すべきではないか。

(2)ドイツは憲法擁護庁など諜報機関の防犯カメラなどの統制のために「テロ対策データベース法」などを制定して諜報機関の防犯カメラなどの運用を第三者機関などがチェックしているそうなので、日本も同法を検討してはどうか(日弁連『監視社会をどうする』95頁以下に概要あり。)。また、米オレゴン州ポートランドは2020年9月に、民間企業も公共空間での防犯カメラの利用を禁止する法律を制定し、2020年8月にはアメリカの連邦裁判所が警察による防犯カメラの利用に違憲判決を出しているので、個人情報保護委員会は本検討会でこれらの法律や判決を検討すべきではないか。

Ⅲ.第1回議事録について
1.5頁開示請求について
(1)万引き犯などのブラックリストは施行令5条により保有個人データに該当しないとなると、事業者側は一切開示等請求に応じなくてよいことになってしまい、いわゆる防犯カメラの冤罪被害者の人権侵害を救済できない。施行令5条で一律に保有個人データに該当しないのではなく、ブラックリストに載せられた人を救済できるための何らかの手当が必要ではないか。

2.5頁GDPRについて
(1)DGPR9条だけでなく、同22条やAI規制法案も検討すべき。また、例えばドイツの憲法擁護庁など諜報機関に関する対テロ法など、諜報機関の情報管理を第三者がチェックするための法律なども検討すべき。本検討会の射程に収まるかは別として、PPCはプロファイリング拒否権やAI規制法を日本にも導入するために検討をすべきではないか。また、欧米は2000年代に制定した遺伝子差別禁止法なども日本も早く立法化すべきではないか。

Ⅳ.第2回議事録について
1.2頁目の真ん中の〇の部分
(1)「制定当初の個人情報保護法は…個人情報の中に機微性における区別はなかった」は、事実誤認である。制定当初の個人情報保護法に基づいて制定された、金融庁の金融分野における個人情報保護ガイドラインなどは、センシティブ情報に関する規定を置いている。また、2000年の旧労働省の「労働者の個人情報保護の行動指針」もプロファイリング拒否権の条文を置いている。

(2)3頁目の3番目の〇の「立法者意思説でなく法律意思説でいくべき」について 賛成である。立法者の意思も重要であるが、現在の社会情勢や判例・学説の動向を勘案の上、機動的に個人情報保護(個人データ保護)、個人の尊重や基本的人権の確立のための行政活動・立法活動を行うべきである。

2.6頁の顔識別機能付きカメラについて
(1)顔識別機能付きカメラにより個人のプロファイリングがなされてしまうとの問題意識に賛成である。この点をさらに深堀りし、国民の個人の尊重と基本的人権を守る方向で議論をすすめていただきたい。

3.7頁目の「検討すべき事項」について
(1)経産省・総務省の商用カメラに関する「カメラ画像利活用ガイドブック」と個人情報保護法や同ガイドラインの防犯カメラに関する部分との統一化が必要ではないか。カメラを利用し個人の顔識別やプロファイリングなどを行う面では同じ問題なのであるから。また、国民の個人の尊重と基本的人権の保護のために、これらを規制する枠組み立法が必要である。

(2)8頁目の「カメラ画像の第三者提供や共同利用」を広げていく議論に関しては、慎重な議論が必要である。個人情報保護法17条(利用目的の特定)の背後にある、「必要最低限の原則」に180度反する可能性が高いので、慎重な議論が必要である。同様に、デジタル庁等が現在推進している、「学習データ利活用ロードマップ」や「行政の保有する子供の個人データの共有化」「スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想」などの政策も、この「必要最低限の原則」に180度反しているので、PPCは個人情報保護法の所管官庁として、しかるべき対応をすべきではないか。

(3)その他、就活生のSNSの「裏アカウント」を採用企業や調査会社などが調査し分析している問題や、ネット系人材紹介会社が本人の承諾なしに勝手にSNSやGithubなどの個人データを収集・分析して人材紹介ビジネスを行っている問題など、労働法(職安法など)と個人情報保護法が交錯する分野についても、PPCは厚労省と共担でしかるべき対応を行うべきではないか。また、最近、警察庁が国民のSNSをAIで捜査するシステムを導入したとのことであるが、これらについてもPPCは個人情報保護法(個人データ保護法)の担当所管としてしかるべき対応をすべきではないか。

(参考)
・JR東日本が防犯カメラ・顔認証技術により駅構内等の出所者や不審者等を監視することを個人情報保護法などから考えた(追記あり)
・防犯カメラ・顔認証システムと改正個人情報保護法/日置巴美弁護士の論文を読んで
・ジュンク堂書店が防犯カメラで来店者の顔認証データを撮っていることについて
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・Github利用規約や労働法、個人情報保護法などからSNSなどをAI分析するネット系人材紹介会社を考えた
・警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを法的に考えた-プライバシー・表現の自由・GPS捜査・データによる人の選別
・遺伝子検査と個人情報・差別・生命保険/米遺伝子情報差別禁止法(GINA)
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた(追記あり)













このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ラインのアイコン

1.LINEがプライバシーポリシーを改正
LINE社が3月31日付でLINEのプライバシーポリシーを改正するようです。その内容は、①提携事業者からのメッセージ送信・広告配信などに利用する情報の取得・利用、②統計情報の作成・提供、③越境移転に関する情報の追加、の3点となっています。

このなかで①②はどちらも他社データをLINEの保有する個人データに突合・名寄せをして該当するユーザーに広告やメッセージ等を表示する等となっておりますが、これは委託の「混ぜるな危険の問題」に該当し、本年4月施行の個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドラインQA7-41、42、43から違法の可能性があると思われます。また、この改正がLINEのプライバシーポリシー本体に記載されていないこと、昨年3月に炎上した「外国にある第三者」の外国の個人情報保護の制度等の情報の部分が「準備中」となっていることも個人情報保護法上問題であると思われます。

・プライバシーポリシー改定のお知らせ|LINE
・LINEプライバシーポリシー|LINE

2.①提携事業者からのメッセージ送信・広告配信などに利用する情報の取得・利用
LINE社の「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」によると、「①提携事業者からのメッセージ送信・広告配信などに利用する情報の取得・利用」は、「ユーザーの皆さまへ提携事業者が「公式アカウントメッセージ送信」や「広告配信」などを行う際、当該提携事業者から取得した情報(ユーザーの皆さまを識別するIDなど)をLINEが保有する情報と組み合わせて実施することがあります。」と説明されています。

ラインプライバシーポリシー変更のご案内2
(LINE社の「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」より)

そして、この点を詳しく説明した「LINEプライバシーポリシー改正のご案内」は①についてつぎのように説明しています。

情報の流れ
1.A社(提携事業者)が、商品の購入履歴のあるユーザー情報(ユーザーに関する識別子、ハッシュ化されたメールアドレス、電話番号、IPアドレス、OS情報など)を加工してLINEに伝える
   ↓
2.LINEが、A社から受け取ったユーザー情報の中からLINEのユーザー情報だけを抽出する
   ↓
3.抽出されたユーザーに対して、A社の保有するLINE公式アカウントからのメッセージ送信や、広告の配信を実施する
ライン1
ライン2
(LINE社の「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」より)

この「情報の流れ」によると、LINE社の提携事業者A社は、ユーザーを識別するためのハッシュ化されたメールアドレス、電話番号、IPアドレスなどのユーザー情報をLINE社に提供し、当該ユーザー情報をLINE社は同社が保有する個人データ(個人情報データベース)と突合・名寄せし(=混ぜる)、LINEのユーザー情報だけを抽出し、当該抽出されたユーザーに対して、A社の保有するLINE公式アカウントからのメッセージ送信や、広告の配信を実施するとなっています。

3.委託の「混ぜるな危険」の問題
しかしこのプロセス中の、「提携事業者A社は、ユーザーを識別するためのユーザー情報をLINE社に提供し、当該ユーザー情報をLINE社は同社が保有する個人データ(個人情報データベース)と突合・名寄せし、LINEのユーザー情報だけを抽出する」というプロセスは、いわゆる委託の「混ぜるな危険の問題」そのものです。

この点、PPCの「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」(2022年4月1日施行版)3-6-3(1)は、委託の「委託先は、委託された業務の範囲内でのみ本人との関係において委託元である個人情報取扱事業者と一体のものと取り扱われることに合理性があるため、委託された業務以外に当該個人データを取り扱うことはできない」と規定しています(個人情報保護法ガイドライン(通則編)3-6-3 第三者に該当しない場合(法第27条第5項・第6項関係)(1)委託(法第27条第5項第1号関係))。

そして改正前のPPCの個人情報保護法ガイドラインQA5-26-2は、「委託先が委託元から提供された個人データを他社の個人データと区別せずに混ぜて取り扱う場合(いわゆる「混ぜるな危険」の問題)について、委託として許されない」としています(田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁)。

すなわち、委託(改正個人情報保護法27条5項1号・改正前法23条第5項第1号)とは、コンピュータへの個人情報のデータ入力業務などのアウトソーシング(外部委託)のことですが、委託元がすることができる業務を委託先に委託できるにとどまるものであることから、委託においては、委託元の個人データを委託先の保有する個人データと突合・名寄せなどして「混ぜて」、利用・加工などすることは委託を超えるものとして許されないとされているのです。

そして、2022年4月1日施行の改正版のPPCの個人情報保護法ガイドラインQA7-41はこの点を次のように明確化しています。
Q7-41
委託に伴って提供された個人データを、委託先が独自に取得した個人データ又は個人関連情報と本人ごとに突合することはできますか。

A7-41
個人データの取扱いの委託(法第23条第5項第1号)において、委託先は、委託に伴って委託元から提供された個人データを、独自に取得した個人データ又は個人関連情報と本人ごとに突合することはできません。したがって、個人データの取扱いの委託に関し、委託先において以下のような取扱いをすることはできません。

事例1)既存顧客のメールアドレスを含む個人データを委託に伴ってSNS運営事業者に提供し、当該SNS運営事業者において提供を受けたメールアドレスを当該SNS運営事業者が保有するユーザーのメールアドレスと突合し、両者が一致した場合に当該ユーザーに対し当該SNS上で広告を表示すること

事例2)既存顧客のリストを委託に伴ってポイントサービス運営事業者等の外部事業者に提供し、当該外部事業者において提供を受けた既存顧客のリストをポイント会員のリストと突合して既存顧客を除外した上で、ポイント会員にダイレクトメールを送付すること

これらの取扱いをする場合には、①外部事業者に対する個人データの第三者提供と整理した上で、原則本人の同意を得て提供し、提供先である当該外部事業者の利用目的の範囲内で取り扱うか、②外部事業者に対する委託と整理した上で、委託先である当該外部事業者において本人の同意を取得する等の対応を行う必要があります。(令和3年9月追加)

QA7-41
(個人情報保護法ガイドラインQA7-41より)

したがって、委託先であるLINE社が委託元の提携事業者A社から商品の購入履歴のあるユーザー情報を受け取り、LINE社が自社が保有する個人データと当該A社の他社データを突合・名寄せしてユーザーを抽出し、当該ユーザーに広告やダイレクトメールを送信するなどの行為は、PPCの個人情報保護法ガイドラインQA7ー41の事例1、事例2にあてはまる行為であるため許されません。

この点、PPCの個人情報保護法ガイドラインQA7ー41はこの委託の「混ぜるな危険」の問題をクリアするためには、「①外部事業者に対する個人データの第三者提供と整理した上で、原則本人の同意を得て提供し、提供先である当該外部事業者の利用目的の範囲内で取り扱うか、②外部事業者に対する委託と整理した上で、委託先である当該外部事業者において本人の同意を取得する等の対応を行う必要がある」としています。

そのため、LINE社が第三者提供としての本人の同意を取得しないと、今回のLINE社のプライバシーポリシーの改正の①の部分は違法となります。

4.「本人の同意」について
なおこの場合は、法27条5項1号の「委託」に該当しないことになり、原則に戻るため、法27条1項の本人の同意が必要となるため、法27条2項のオプトアウト方式による本人の同意では足りないことになります(岡村久道『個人情報保護法 第3版』263頁)。

また、個人情報保護法ガイドライン(通則編)3-4-1は、本人の同意の「同意」について、「同意取得の際には、事業の規模、性質、個人データの取扱状況等に応じ、本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示さなくてはならない」と規定しています。

しかし、LINE社のスマホアプリ版のLINEを確認すると、冒頭でみたように、①提携事業者からのメッセージ送信・広告配信などに利用する情報の取得・利用、②統計情報の作成・提供、③越境移転に関する情報の追加、の3点が簡単に表示されているだけで、①②が委託の「混ぜるな危険の問題」に関するものであることの明示もなく、プライバシーポリシーの改正への「同意」ボタンしか用意されていません。これではPPCのガイドラインの要求する「本人の同意」に関する十分な説明がなされていないのではないかと大いに疑問です。

5.プライバシーポリシーに記載がない?
さらに気になるのは、LINE社の改正版のプライバシーポリシーをみると、上の①②に関する事項が「パーソナルデータの提供」の部分にまったく記載されていないようなことです。さすがにこれはひどいのではないでしょうか。たしかに「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」には最低限の記載は存在し、これやプライバシーポリシーを両方とも一体のものとして読めばいいのかもしれませんが、これで通常の判断能力を持つ一般人のユーザーは合理的にLINEのプライバシーポリシーの改正を理解できるのでしょうか?

パーソナルデータの提供
(LINEプライバシーポリシーより)

LINE社の経営陣や法務部、情報システム部などは、昨年、情報管理の問題が国・自治体を巻き込んで大炎上したにもかかわらず、あまりにも情報管理を軽視しすぎなのではないでしょうか。

6.「②統計情報の作成・提供」について
LINE社のプライバシーポリシーの改正点の2つ目の「②統計情報の作成・提供」は、「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」によると、広告主等の提携事業者から情報(ユーザーの皆さまを識別するIDや購買履歴など)を受領し、LINEが保有する情報と組み合わせて統計情報を作成することがあります。提携事業者には統計情報のみを提供し、ユーザーの皆さまを特定可能な情報は提供しません。」と説明されています。

ライン3
ライン4
(「LINEプライバシーポリシー変更のご案内」より)

つまり、「②統計情報の作成・提供」も①と同様に広告主などの提携事業者の他社データをLINE社が自社の個人データと突合・名寄せして、ユーザーの行動傾向や趣味・指向などを分析・作成等するものであるようです。LINE社は分析・作成した成果物は統計情報であるとしていますが、4月1日施行のPPCの個人情報保護法ガイドラインQA7ー38は、成果物が統計情報であったとしても、委託元の利用目的を超えて委託先が当該統計情報を利用等することはできないと規定しており、同時に同QA7ー43も、統計情報を作成するためであったとしても、委託の「混ぜるな危険の問題」を回避することはできないと規定しています。したがって、②の場合についても、第三者提供として本人の同意を取得しない限りは、同取扱いは違法となります。

7.「外国にある第三者」の外国の個人情報保護の制度等の情報の部分が「準備中」?
さらに、今回のLINE社のプライバシーポリシー改正の三番目の「③越境移転に関する情報の追加」の部分については、プライバシーポリシーの該当部分の「外国のパーソナルデータ保護の制度等の情報はこちら」の部分をクリックして開いても、「ただいま準備中てす」との文言しか表示されませんでした(2022年3月28日現在)。この「外国にある第三者」に係る外国の個人情報保護の制度等の情報については、あらかじめ本人に提供しなければならないと改正個人情報保護法28条2項が明記しているのにです。PPCや総務省からみて、LINE社のこのような仕事ぶりが許容されるのか大いに疑問です。

(なお、プライバシーポリシーも民法の定型約款の一種ですが、民法548条の2第2号の規定から、事業者は契約締結や契約が改正された場合はあらかじめ約款の表示が必要と解されています。PPCサイトにはすでに事業者が参考になる外国の制度等の情報が掲載されていることも考えると、3月下旬ごろからプライバシーポリシー改正の本人同意の取得をはじめているLINE社のプライバシーポリシーの一部が未完成なのは、民法や消費者保護の観点からもやはり大問題です。)

ただいま準備中です
(LINE社のプライバシーポリシーより)

8.まとめ
このように、今回、LINE社がプライバシーポリシーを改正した①②は、委託の「混ぜるな危険」の問題に関するものであり、LINE社は第三者提供の本人の同意を取得しなければ違法となります。この「本人の同意」について、PPCの個人情報保護法ガイドライン(通則編)は、「本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示す」ことが必要としているにもかかわらず、LINE社の説明はオブラートにくるんだようなものであり、これで通常の一般人のユーザーがプライバシーポリシーの改正内容を十分理解をした上で「本人の同意」をできるのか非常に疑問です。とくに今回の改正内容がプライバシーポリシー本体に盛り込まれていないことは非常に問題なのではないでしょうか。

また、「外国にある第三者」の外国の個人情報保護法制などの制度の情報に関する部分が「準備中」となっているのも、昨年3月にこの部分が大炎上したことに鑑みても非常に問題です。

LINEの日本のユーザー数は約8900万人(2021年11月現在)であり、日本では最大級のSNSであり、またLINE社は2021年3月に朝日新聞の峰村健司氏などのスクープ記事により、個人情報の杜撰な管理が大炎上したのに、LINE社の経営陣や法務部門、情報システム部門、リスク管理部門などの管理部門は、社内の情報管理をあいかわらず非常に軽視しているのではないでしょうか。大いに疑問です。

このブログ記事が面白かったらブックマークやシェアをお願いします!

■参考文献
・宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』245頁、277頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』246頁、125頁
・佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』52頁、54頁
・田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁
・児玉隆晴・伊藤元『改正民法(債権法)の要点解説』108頁

■関連する記事
・2022年の改正職業安定法・改正個人情報保護法とネット系人材紹介会社や就活生のSNS「裏アカ」調査会社等について考えるープロファイリング
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・個人情報保護法改正対応の日経新聞の日経IDプライバシーポリシーの改正版がいろいろとひどい
・LINEの個人情報事件に関するZホールディンクスの有識者委員会の最終報告書を読んでみた
・令和2年改正の個人情報保護法ガイドラインQ&Aの「委託」の解説からTポイントのCCCの「他社データと組み合わせた個人情報の利用」を考えた-「委託の混ぜるな危険の問題」
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・ドイツ・欧州の情報自己決定権・コンピュータ基本権と日米の自己情報コントロール権について
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-プロファイリング拒否権・デジタル荘園・「デジタル・ファシズム」
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・CCCがトレジャーデータと提携しTポイントの個人データを販売することで炎上中なことを考えたー委託の「混ぜるな危険」の問題



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ヤフーデータは大切に守ります
(Yahoo!Japanより)

このブログ記事の概要
Yahoo!JapanなどのEU域内に事業所等のない日本企業であっても、EU域内の個人へのネット上のサービスなどを提供している場合、GDPRの直接適用を受け、万一違反をした場合には罰則・制裁金を科されるリスクがある。

1.Yahoo!Japanが2022年4月6日よりEUおよびイギリスでサービスを終了
Yuta Kashino様(@yutakashino)のTwitterの投稿などによると、Yahoo!Japan(ヤフージャパン)が2022年4月6日よりEUおよびイギリスでサービスを終了するとのことです。「ビッグテックのCookie利用で,仏政府が今月頭にGDPRを根拠に巨大制裁金を課した」からであろうとYuta Kashino様はしておられます。

ヤフージャパンEU
(Yuta Kashino様(@yutakashino)のTwitterより)
https://twitter.com/yutakashino/status/1488355581148737537

Yahoo!Japanもプレスリリースを出しています。
・重要なお知らせ 2022年4月6日 (水)よりYahoo! JAPANは欧州経済領域(EEA)およびイギリスからご利用いただけなくなります|Yahoo!Japan

2.4月6日以降に欧州から個人がYahoo!Japanサイトへアクセスして、その上でGDPR違反が問われたら、YJは巨額制裁金を支払うことになるのだろうか?
このYahoo!Japanの対応に関しては、Twitter上で「4月6日以降に欧州から個人がYahoo!Japanサイトへアクセスして、その上でGDPR違反が問われたら、YJは巨額制裁金を支払うことになるのだろうか?」などの疑問を提起されています。この問題に関しては、GDPRの解説書などを読む限り、そのリスクがあるのではないかと思われます。

3.EU域内に拠点のない企業でも、EU域内の個人に対するサービスの提供等を行う場合、GDPRが直接適用される
(1)EUのGDPR(EU一般データ保護規則)3条2項
この点、小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』33頁は、

「EU域内に拠点のない企業でも、EU域内の個人に対するサービスの提供などを行う場合、GDPRが直接適用される」
と解説しています。

そして、EUのGDPR(EU一般データ保護規則)3条2項はつぎのように規定しています。

「取扱活動が以下と関連する場合、本規則は、EU域内に拠点のない管理者又は処理者によるEU域内のデータ主体の個人データの取扱いに適用される」

「(a)データ主体の支払いが要求されるか否かを問わず、EU域内のデータ主体に対する物品又はサービスの提供。又は」

「(b)データ主体の行動がEU域内で行われるものである限り、その行動の監視」


GDPR3条2項
(GDPR3条2項の日本語訳。個人情報保護委員会サイトより。)
・GDPR仮日本語訳|個人情報保護委員会

つまり、「(a)EU域内のデータ主体(=個人)に対する物品又はサービスの提供」をする場合、または「(b)データ主体の行動がEU域内で行われるものであり、その行動の監視」をする場合のいずれかのときは、EU域内に拠点のない事業者に対してもGDPRが直接適用されることになり、もし万一当該事業者がGDPR違反をした場合には、GDPRに基づく罰則・制裁金などが科されるリスクがあることになります(最大2000万ユーロまたは前会計年度の世界売上の4%のいずれか高い方の金額の制裁金。同83条)。

(2)どのような場合にGDPRが直接適用されるのか?
どのような場合にGDPRが直接適用されるのかについて、小向・石井・前掲35頁以下は、"オンラインサービス提供者の意思が問題となるが、英語でサイトを作成しているだけでなく、ユーロやポンドなどを決済通貨にしてる場合はGDPR3条2項でGDPRが直接適用されるだろう”としています。

また同書は、「.eu」や「.de」などのドメインをサイトに利用してる場合や、『euのお客様へ』などの説明文がある場合、さらにEUの個人の行動ターゲティング広告や位置情報の把握などを実施していたり、cookieなどでeu域内の個人を追跡してる場合などは、GDPR3条2項(b)が適用されるだろうとしています。

この点、冒頭のYuta Kashino様が指摘されているように、Yahoo!JapanはおそらくこのGDPR3条2項(b)が適用され、GDPRの直接適用があるので、GDPRによる罰則・制裁金などのリスクを回避するために4月からEUとイギリスでのサービス提供を終了するのではないかと思われます。

なぜなら、Yahoo!Japanは行動ターゲティング広告などを提供する等のために、Cookieなどにより国内外のユーザーのネット上の行動を追跡・監視しているからです。

この点、Yahoo!Japanの「プライバシーセンター」の「パーソナルデータの取得」のページは、

●Yahoo! JAPANのウェブページへのアクセスに伴って送信された「IPアドレス」を取得する場合
●Yahoo! JAPANのウェブページの閲覧履歴を取得する場合
●Yahoo! JAPANの検索機能を利用する際に入力された検索キーワードを取得する場合
●Yahoo! JAPANのショッピングサービスでの購買履歴を取得する場合
●「Yahoo!防災速報」「Yahoo!天気」「Yahoo! MAP」などをインストールされている端末に対して、所在地に応じた災害情報などをお知らせするために、端末の位置情報を取得する場合
●Yahoo! JAPANの広告主や広告配信先などのウェブページやアプリを利用した場合に、そのパートナーのウェブページやアプリにYahoo! JAPANの「ウェブビーコン」などを設置して「クッキー」や端末情報を参照することで、お客様がご利用の端末を識別するための情報を取得する場合
・パーソナルデータを取得する場合|Yahoo!Japan
ヤフーのプライバシーセンター

などの場合に、Yahoo!JapanはユーザーのIPアドレス、サイト閲覧履歴、検索キーワード、位置情報、Cookieや端末ID、端末情報などを収集するとしています。

つまり、Yahoo!Japanは同社サイトの各種のサービスを利用しているユーザー・顧客のIPアドレス、サイト閲覧履歴、検索キーワード、位置情報、Cookieや端末ID、端末情報などを収集し、それぞれのユーザーのネット上の行動や位置情報などを監視・追跡しているので、GDPR3条2項(b)が適用され、Yahoo!Japanの事業所等が仮にEUになく、EUの域外にしかないとしても、GDPRが直接適用されることになります。そのため、万一Yahoo!JapanがGDPR違反をした場合には、罰則・制裁金などが科されるリスクがあることになります。

4.そもそもGDPRの罰則が日本企業に科されるのか?
ところでネット上をみていると、「そもそもEUのGDPRの罰則が日本企業に科されるはおかしいのではないか?」との意見をみかけます。

この点、たしかに日本の刑法は原則として属地主義であり、日本国内で起きた犯罪を処罰するものです(刑法1条)。しかし、刑法2条から5条までが規定するとおり、日本国民が殺人や強盗など海外で重大な犯罪被害を受けたような場合には、日本の刑法は海外にも適用されます(属人主義)。また、内乱罪や通貨偽造罪など日本の国家的利益を損なう犯罪に対しても日本の刑法が海外に適用されるほか(保護主義)、例えばハイジャックなど世界的な利益に対する犯罪にも日本の刑法が適用されることがあります(世界主義)。

このように、法律は国内だけでなく国外にも適用される場合があります。法律は国をまたいで適応の範囲が重なりあう場合があるのです(小向・石井・前掲38頁、大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ総論 第2版』449頁)。

例えば、日本の個人情報保護法75条も、匿名加工情報に関しては国外の事業者にも日本の個人情報保護法が適用されるとの条文を置いています。

個人情報保護法
(適用範囲)
第75条 第十五条、第十六条、第十八条(第二項を除く。)、第十九条から第二十五条まで、第二十七条から第三十六条まで、第四十一条、第四十二条第一項、第四十三条及び次条の規定は、国内にある者に対する物品又は役務の提供に関連してその者を本人とする個人情報を取得した個人情報取扱事業者が、外国において当該個人情報又は当該個人情報を用いて作成した匿名加工情報を取り扱う場合についても、適用する。

5.GDPRの十分性認定とは?
また、「日本はEUからGDPRの十分性認定を受けているので、GDPRの罰則が適用されるのはおかしいのでは?」という疑問もネット上でみかけます。

この点、EUのGDPRは原則として、EU域内の個人データがEU域外に移転することを禁止しています。しかし、①十分性認定(45条)、②拘束的企業準則(BCR(Binding Corporate Rules)46条2項(b)、47条)、③標準データ保護条項(SCC(Standard Contractual Clauses)46条2項(c)(d))、④行動規範(46条2項(e))、⑤認証(46条2項(f))などがある場合には、EU域内の個人データがEU域外に移転することを認めています。

日本は2019年1月にEUからGDPR45条に基づき十分性認定を受けているため、上の拘束的企業準則や標準データ保護条項などの法的手続きを経ずに企業などがEU域内の個人データがEU域外に移転することができることになっています(越境データ移転の問題)。

しかしこれはあくまでも拘束的企業準則や標準データ保護条項などの法的手続きを経ずに企業などがEU域内の個人データがEU域外に移転することができるという越境データ移転の問題であり、日本の企業などがEU域内の個人データに関してGDPR違反をした場合には、上でみたように同3条2項によりGDPRが直接適用され、罰則や制裁金が科されるリスクがあることになります。

6.まとめ
このように、日本はEUからGDPRの十分性認定を受けていますが、しかしEU域内に事業所がある企業や(GDPR3条1項)、EU域内に事業所がない企業でも、例えばECやスマホアプリやゲームの開発などで、EU域内の個人にネットのオンラインサービスなどを提供している事業者などは(同3条2項)、GDPRの適用を受け、万が一GDPR違反をした場合には、罰則や制裁金などが科されるリスクがあることになります。

この点、日本の個人情報保護委員会は、GDPRの日本語訳や各種のガイドラインの日本語訳などをサイトに掲載しています。また、個人情報保護委員会は、「個人情報の保護に関する法律に係るEU及び英国域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール」等も準備しています。そのため、EU域内に事業所のある企業や、EU域内の個人などにネット上のサービスを提供している企業などは、日本の個人情報保護法だけでなく、これらのEUなどの各種の法律やガイドライン、ルール等の法令遵守も必要になると思われます。

・日EU間・日英間のデータ越境移転について|個人情報保護委員会
・GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)|個人情報保護委員会
・個人情報の保護に関する法律に係るEU及び英国域内から十分性認定により移転を受けた個人データの取扱いに関する補完的ルール|個人情報保護委員会

このブログ記事が面白かったらブックマークやシェアをお願いします!

■参考文献
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』33頁、38頁、41頁、141頁
・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ総論 第2版』449頁

■関連記事
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想はマイナンバー法・個人情報保護法や憲法から大丈夫なのか?-プロファイリング拒否権・デジタル荘園・「デジタル・ファシズム」
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・文科省が小中学生の成績等を一元管理することを考える-ビッグデータ・AIによる「教育の個別最適化」
・小中学校のタブレットの操作ログの分析により児童を評価することを個人情報保護法・憲法から考えた-AI・教育の平等・データによる人の選別
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件(追記あり)-個人情報・公務の民間化
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた
・飲食店の予約システムサービス「オートリザーブ」について独禁法から考えた
・ヤフーのYahoo!スコアは個人情報保護法的に大丈夫なのか?























このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ